歩くと腰痛をしっかり「予防」できる、再発率を下げる効果を初めて実証、治療以外にも
個人に合わせたウオーキング
ハンコック氏らは、ウオーキングと腰痛予防について具体的なデータを集めることにした。調査の対象として、骨折や感染症、がんなどが原因ではない腰痛を平均4~5日経験し、最近回復した人を701人集めた。定期的な運動を行っていないことも参加の条件にした。被験者の平均年齢は54歳、平均的な人(中央値)で過去に33回の腰痛を経験していた。 研究チームは、典型的な腰痛患者に注目した。ハンコック氏は、「ほとんどの腰痛患者が、再発や症状の波を経験しています」と言う。これまでの研究でも、腰痛の症状は平均5~6日続く傾向があることがわかっている。 被験者は、2つのグループに分けられた。ひとつのグループは、理学療法士による6回の個別指導を受けた。理学療法士はコーチとなって、被験者が半年後までに、1日30分以上、週5日のウオーキングができるようになることを目標とした。もうひとつのグループに対しては、何の指導も行わなかった。 個別指導を行ったグループでは、身体的な制約や生活環境に合わせて、理学療法士がウオーキング・プログラムを調整した。また、腰痛が再発したときの対処方法についての助言も与えられた。 個別指導を受けた人は、職場まで歩く、毎日決まった時間に散歩するなど、生活に合わせたウオーキングの方法を見つけた。また、体の状況に合わせて、無理のないペースでウオーキングを続けることもできた。 最初のうちは対面で行っていたが、新型コロナウイルスの流行を受けてリモートでの指導に切り替えた。そのため、通常は医師の診察を受けることすらままならないような、オーストラリアの僻地に住む被験者も対象にすることが可能になった。 この方針は、理学療法士の臨床現場でのトレンドとも一致する。「一番重要なことは、患者が暮らす場所で患者に会うことです」と、米ロチェスター大学医療センターの理学療法士ジェイク・ケラー氏は言う。 両方のグループの被験者から、再発の有無と、再発した時期についての報告を集めた。状況の追跡は1~3年間続けられた。 ウオーキングについて助言を受けたグループは、そうではないグループと比べて、日常の活動に支障が出る腰痛が再発する確率が28%少なかった。また、そうした腰痛が再発したすべての被験者の中で、ウオーキングを行ったグループの再発までの間隔は平均208日、そうでないグループは112日だった。 この結果は、回復にとって運動がいかに重要であるかを表すものだ。ハンコック氏は、次のようにまとめている。 「私たちの体はしっかりと回復するようにできていますが、それには、回復にふさわしい環境が必要です。そして、回復にふさわしい環境とは、運動です。運動すれば、気分もよくなります」
文=Rachel Fairbank/訳=鈴木和博