村上春樹 新人賞授賞式のあと、作家・吉行淳之介と「文壇バー」に行った時のことを語る「あとにも先にも行ったのはその1回だけ」
◆DJ Tunez「Life During Wartime」
DJチューンズが歌います。「Life During Wartime 戦時中の生活」、トーキング・ヘッズの曲ですね。 <世間話⑦> もう1人の選考委員だった丸谷才一さんは2012年10月に亡くなっています。僕はちょうどそのとき外国にいて、葬儀には出られなかったので、しばらくしてからお宅に弔問(ちょうもん)にあがりました。そこで息子さんとお話をしていたら、「実は父には遺稿(いこう)があるのですが、それはちょっと世間には出せない性格のものなんです」と言われました。 どういうことか事情を聞いてみると、それは僕がノーベル文学賞をとったときに、新聞に載せるために書いたお祝いの原稿なんだそうです。新聞社に頼まれて、前もって用意されていたんですね。でも僕はもちろんそんな賞はとらなかったから、それは机の引き出しに入れたままになっていた。 それを聞いて、申し訳ないことをしたなと思いました。べつに僕に責任はないんですけど、結果的に発表するあてのない原稿を遺稿として書かせてしまったわけですから。でも、自分が30年以上前に新人賞に推した作家のことを、こうして最後まで温かく見守ってくださっていたのだなと、深く感謝しました。 (TOKYO FM「村上RADIO~村上の世間話5~」2024年11月24日(日)放送より)