じつは「マンモスが滅びて、森が繁栄した」…同じことが「白亜紀」に起こっていても「少しも不思議ではない」という、納得の理由
被子植物の導管と裸子植物の仮導管
しかし、送粉や果実という戦略は、被子植物のそれぞれの種によって違いが大きい。 被子植物の中には、現在でも風で送粉するものがいるし、果実も多くの水分を含んでいるものからほぼ乾燥しているものまでさまざまだ。 もちろん、これらの戦略が、被子植物の成功に役立ったことは間違いないだろう。しかし、被子植物にとってもっと一般的な第3の戦略の方が、さらに重要だったかもしれない。それは生長の速さである。 被子植物の生長が速い理由は、光合成をする能力が高いためと考えられる。たとえば、光合成には水が必要だが、水を地中から引き上げるために多くの被子植物が使っているのは、導管である。 導管の細胞は中身がない死んだ細胞で、上下に穴が開いている。そういう細胞が上下に繋がって、1本のパイプになっている。つまり、被子植物の導管は、太くて真っすぐなので、水をたくさん運べるのだ。
裸子植物の仮道管
一方、多くの裸子植物は、仮道管で水を引き上げている。仮道管の細胞も中身がないが、細胞自体が細くて、横向きに穴が開いている。そういう仮道管の細胞は束になっており、水は横に開いた穴を通って、たくさんの細胞の中を曲がりくねりながら進んでいく。 そのため、道管ほどは効率よく水を運ぶことができない。つまり、もしも被子植物と裸子植物で空き地の取り合いになったときには、たいてい成長の速い被子植物が勝利を収めることになっただろう。
恐竜が樹木をなぎ倒した
とはいえ、空き地はどこにあるのだろうか。樹木が生きられる場所には、たいていすでに樹木が生えている。樹木の寿命は比較的長いし、周辺には同種の次の世代の樹木も育っている。 たしかに、樹木の生えていない空き地で、種子の段階から競争を始めれば、被子植物は勝利を収めるかもしれない。でも、なかなかそういう機会は訪れないのではないだろうか。 しかし、被子植物が出現した白亜紀には、恐竜がいた。恐竜は樹木をなぎ倒して、多くの空き地を作り出したかもしれない。そうであれば、種子の段階から競争を始められる。被子植物の成功は、恐竜の存在に支えられていたかもしれないのだ。 こういう巨大な動物の力を過小評価してはいけない。シベリアに棲んでいたケナガマンモスは、マンモスステップと呼ばれる草原で暮らしていた。 それは、マンモスが樹木をなぎ倒して森林を破壊し、草原を維持していたからだ。事実、マンモスが絶滅してからマンモスステップは消滅し、森林が広がるようになったのである。 同じようなことが白亜紀に起きても不思議はない。恐竜が森林を破壊することで、被子植物が繁栄への道を歩み始めた可能性は、かなり高いと考えられる。
更科 功(分子古生物学者)
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