革命的出版社の軒先に置かれた、一冊も無駄にしない覚悟。『トランスビュー 軒先BOOK SHOP』。
text: Ryoma Uchida edit: Toromatsu #東京五十音散策 東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「す」は水天宮前へ。
駅を降り、明治座方面へ歩いていると緑道を発見。かつて大川(隅田川)に繋がる堀割で、いまや暗渠となった「浜町川」があった場所だ。「浜町緑道」という名の付いたグリーンベルトで、小さな植物園といっていいほど緑に囲まれた散歩道。気持ちよく歩いていると、横道のビルの入り口に、なにやら本が積まれた簡素な細長いテーブルと「軒先BOOK SHOP」の文字を見つけた。本好きとしては、吸い寄せられてしまう。 東京五十音散策 水天宮前③
ここは出版社『トランスビュー』が、まさに会社の入り口の“軒先”で運営する本の無人販売所。実はこの会社、「トランスビュー方式」と呼ばれる書店との直接取引スタイルを確立した、知る人ぞ知る出版社なのだ。代表の工藤秀之さんにお話を伺った。
「元々、京都の“日本で一番古い出版社”といわれる、創業400余年の仏教書の出版社『法藏館』に勤めていました。そこの東京事務所がすぐ近くの清洲橋のたもとにあったのですが、閉まるタイミングで同社の先輩に誘われたんです。楽しそうでしたし、当時は実家から仕事へ行っていたので、京都に行く余裕もなくて」
流れのまま、東京で『トランスビュー』を立ち上げることになったそうだが、会社に参加する際に一つだけ条件を出したという。それは出版のこれまでの“流れ”にあらがうことだった。
「書店と直接取引することです。古い出版社は 取次が卸す条件がいいんですけど、その代わり、町の本屋さんに入る条件が厳しくなるんです。ですから当時お世話になってた書店の方々が辞めていくのを目の当たりにして。そこで、メーカーから改善できることは売れる商品(本)を作ることと、小売店へ渡す条件を良くすることの二つ。加えて言えば『取り寄せに二週間かかる』みたいなストレスをなるべくなくして納品してあげることです。時間がかかるとお客さんも離れていってしまいますからね。お店がお客さんファーストで動ける環境を作るためには、書店と直接やり取りするのが手っ取り早いと思ったんですね。今もそうなんですけども」