革命的出版社の軒先に置かれた、一冊も無駄にしない覚悟。『トランスビュー 軒先BOOK SHOP』。
今でも3人で小さく運営している『トランスビュー』。小規模だからこそ取次をあえて介さず、書店と直接やり取りをする。その方法は、注文された分を出荷し、その分の請求書を出すというシンプルなもの。もちろん、書店が注文したくなる本を制作できなければ売り上げも減ってしまうが、出版社への返品率が下がるため、損失が少なく安定した運営が可能となった。ただ、率は低いといっても返品本はある。再出荷できずに捨ててしまうのも忍びないという気持ちから、サービス価格で提供するのが『軒先BOOK SHOP』だ。セルフサービスだが、買っていく人も多いとか。
「どんな本が売れるかなど基本的にマーケティングもしていません。書店さんが注文してくれたものを出すので、小売店を信用するスタンスですね。無理に売ってくれとお願いせずに、書店の個性に委ねています。今はよくわからないですけれども、やはりメーカーなどが口を挟んでしまうと、商品が均一化されてしまう危険がありますからね。『トランスビュー』の方針としては、ブームに乗らずに長く売れるものを目指しています。単純に長く売れる本の方が小さな出版社として売りやすいというのもありますが、やっぱり、長く後の世代の人に伝えるべきものを残すってことが本の仕事なんだろうとは思いますね」
『トランスビュー』を設立した2001年当時、40店舗ほどの扱いだったのが、今や4000店ほどの書店に卸しているのだとか。流通の仕組みを根本から考え直す、革命的な取り組みを続ける工藤さんだが、その原動力はどこにあるのだろう。
「なんでしょうね。やっぱり『あの時こうできてればよかった』とか、そんな気持ちですかね。僕は神奈川県平塚市出身なんですけど、街の外れに住んでいて、周りに本屋さんが全然なかったんですよね。だから、近くに本屋があればよかったなとか。近くに気の利いた本屋がある。そんな子供時代を過ごすか過ごさないかで、きっと変わりますよね。僕の小さい頃は、集落の小さな商店のマガジンラックで『ジャンプ』や『コロコロコミック』を売っていたんですよ。本屋ではないけど、本を買うのはそこだった。 で、そんなお店も大きなスーパーができて、潰れちゃったんですね。書店も同じような構図を辿ってきたわけで、それをなんとかしたいな、なんとかできたらいいな、ぐらいな話ですかね」