米大統領選、早くも投票をめぐって大混乱…この先一体どうなる!?
11月5日の災難:「内部者の脅威」
一部の情報によると、マックと、CSPOAの他のメンバーの一人であるダール・リーフは、保安官は自分の部隊を持つべきだという考えを明確にもっている。保安官は訓練を受けたり組織化したりする代わりに、地元の民兵組織と連携するという主張もある。 こんな状況だから、「もっともらしい悪夢のシナリオのひとつは、ラテンアメリカ系アメリカ人のグループが投票所で嫌がらせを受けたり、危害を加えられたり、投票を妨げられたりすることだ」という見方まで生まれている。とくに、「一部の民兵は保安官とつながりがあるという事実だけで、たとえ保安官が選挙当日に何かするように指示していなくても、勇気が湧いてくる可能性がある」として、保安官が何もしなくても、民兵組織が騒ぎを起こす可能性があるという。 もっとも重大なのは、選挙にかかわる「内部者の脅威」(Insider Threats)である。ドナルド・トランプの支持者たちのなかには、「投票監視員」としての訓練を受けたり、「投票作業員」として、アメリカ中の郡や都市で選挙管理を担当するポジションに選挙結果を否定しようとする人物を配置したりしようとする動きもある。 10月28日にWiredが報じたところによると、全米の選挙スタッフは、自分や家族に対する殺害予告やストーカー行為、嫌がらせを報告しており、2022年までに、ペンシルベニア州の67郡のうち50郡で、選挙責任者が脅迫を理由にその職を辞しているという。ほかにも、米国の情報機関が数カ月前から政府機関に対して、選挙インフラを攻撃する過激派の陰謀に関する警告をひそかに発していたという情報もある。とくに、投票用紙の投函箱を爆破する方法や、法執行機関の検知を逃れる方法を紹介するオンライン投稿に警告を発していたという。
選挙後に予想される大混乱
前述のCSPOAは組織化された全国ネットワークがあるわけではない。このため、全米各州で、さまざまな騒動が起きかねないと心配されている。それに輪をかけているのがトランプ政権時代に短期間、国家安全保障担当補佐官を務めたマイケル・フリンとその側近たちだ。10月にペンシルベニア州で開催された極右イベントで、フリンが理事を務める団体「アメリカズ・フューチャー」の役員で側近のアイヴァン・ライクリンは、ペンシルベニア州のトランプ支持者に、選挙に負けた場合は州都ハリスバーグに行き、州の代表者たちに「不正な盗用の証拠」を示して「対峙する」よう強く促した(NYTを参照)。 これは、トランプ敗北の場合、共和党が多数を占める州議会が選挙人を保留するよう呼びかけることで、選挙結果の確定を遅らせて、下院の結果によっては共和党主導で、下院での選挙によって11月のハリス勝利を覆す可能性さえある(詳しくはPoliticoの記事を参照)。 実は、2020年以前には、選挙管理委員が選挙の認定を拒否した例はほんの数件しかなかった。しかし、それ以降、委員会または委員のメンバーが結果の認定に反対票を投じたのは、少なくとも8つの州にまたがる20の郡である(NYTを参照)。 法制度上、民意を無効化することは容易ではない。2022年には議会が法案(選挙人制度改革法)を可決し、州が最終的な認証結果を提出する期限を明確に定めることで、さらに難しくなったとみられている。いまの大統領選の認証期限は2024年12月11日である。この法律では、勝者を決定する選挙人の名簿を認証できるのは州議会ではなく州知事のみと定めているから、混乱を生じさせて共和党の知事にトランプに有利な決定をさせることもできることを指摘しておきたい。 先に紹介したフリンとその仲間たちは2020年12月18日、ホワイトハウスで当時のトランプ大統領と面会し、政権維持のために連邦法執行機関と軍関係者を使って投票機を没収するよう説得しようとしたことが知られている。この面会は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件の捜査の焦点にもなっている。こんな過去を知ると、「もしトランプが負けたら」という「もし負けトラ」が再び惨事を招く可能性が少なからずあると言わざるをえないのだ。
塩原 俊彦(評論家)