国家公務員さえ使っていない「マイナ保険証」への一本化が進められる理由 森永卓郎氏は「税務調査に利用して増税に繋げる思惑」を指摘
闘う経済アナリスト・森永卓郎氏の連載「読んではいけない」。今回のテーマは「マイナ保険証問題」。国家公務員ですらマイナ保険証の利用率が低水準なのに、なぜ政府はマイナンバーカードへの一本化を推し進めるのか。その背景を森永氏が考察する。 【徹底解剖】マイナンバー利権の中心に“天下り団体” 関連事業発注の流れ
* * * 自民党は現行の紙(カード)の健康保険証を2024年12月に廃止し、マイナンバーカードに一本化する方針を頑に変えようとしない。現行の保険証も使用できる1年間の猶予期間が設けられているが、問題だらけの法案に不安が募る。 私は目下、がん闘病中でいくつもの病院に通い続ける身だが、いまも紙の保険証を使っている。それで不便を感じたことがなく、マイナンバーカードの提示を求められたこともない。現行のままで何一つ問題ないし、誰に聞いても現行の保険証で困っているという声は聞いたことがない。マイナ保険証への全面切り替えは非現実的な政策にしか見えない。 次のような皮肉なデータもある。厚生労働省が公表した国家公務員が加入する国家公務員共済組合の9月時点のマイナ保険証利用率は13.58%で、国民全体の利用率(13.87%)を下回る低水準だった。役人のほうが国民全体よりもマイナ保険証を利用していなかったのだ。 にもかかわらず、政府がマイナ保険証を強制するのはなぜか。ひとつは国民からの税金収奪の効率化だろう。金融機関の預貯金口座に紐づけされたマイナンバーカードに健康保険証を一体化させることで、税務調査に活用して増税に繋げる思惑が透けて見える。 官僚の天下り先を増やす目論見もあるはずだ。すでにデジタル関連業界は第2のゼネコンと化し、財務省、厚労省、経産省、総務省などの天下り先となって退職した官僚が次々と押し込まれている。マイナンバーカード関連の総事業費は3兆円超とも報じられており、官僚を肥え太らせる一大利権と化している。
デジタル化に対応できない地方のクリニックへの死刑宣告
さらに言えば、私は一連のマイナ保険証問題で政府の「地方無視」に失望している。マイナ保険証のICチップの読み込み機械を導入することも含めて、デジタル化にアジャストできるのは大都市の施設だけである。地方の小さなクリニックに、どうやって専門機器やシステムを導入しろというのか。埼玉のトカイナカに住む私は、地元のクリニックがマイナ保険証導入について行けず廃業してしまうのではないかと心配でならない。 石破茂首相は総裁選時に「紙の保険証との併用も選択肢として当然」と言っておきながら、先の衆院本会議の代表質問(10月7日)では「現行の健康保険証の新規発行終了については法に定められたスケジュールにより進めていく」と明言した。デジタル化に対応できない地方のクリニックへの死刑宣告に等しい言葉である。 本来、マイナ保険証など「持ちたい人は持てばいい」という類の話で、強制するものではないはずだ。政府の愚策で病院難民になる患者が出ないことを祈るばかりである。 【プロフィール】 森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。 ※週刊ポスト2024年12月6・13日号
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