佐藤琢磨が”KIDS KART CHALLENGE”で目指す夢「この中から、プロに匹敵するドライバーが出てきてくれたら嬉しい」 自身も2025年インディ500挑戦に向け調整中
11月18日、佐藤琢磨はモビリティリゾートもてぎのレーシングカートコースにいた。この日はちょうど、マカオGPの決勝レースが行なわれた、まさにその日だった。 【動画】角田裕毅、インディカーを初ドライブ! このマカオGPには、佐藤の息子である凛太郎も出走していた。そのため佐藤も帯同し、息子の走りを徹底サポート。土曜日までサーキットにいて、その日の夜の便で帰国し、日本に着いたのは18日の早朝……そこからもてぎにやってきたのだった。 この日のもてぎでは、佐藤が中心になって2014年に立ち上げられた「TAKUMA KIDS KART CHALLENGE」の2024年ファイナル大会が開催されており、日本各地からキッズカーターが集結し、鎬を削っていた。佐藤も忙しい日程の中来場し、キッズたちの走りを見守った。 佐藤は現在、HRS(ホンダ・レーシングスクール・鈴鹿)のプリンシパルも務めている。そこでは今季はスーパーフォーミュラに参戦し、今週末のF1アブダビGPのFP1ではRBのマシンを走らせる岩佐歩夢や、今季のフランスF4チャンピオンに輝いた加藤大翔などを輩出してきた。そして今年のHRSスカラシップを獲得したのは、前出の息子・凛太郎である。 佐藤は以前から次のように語り、このHRSとTAKUMA KIDS KART CHALLENGEが何らかの形で繋がることを期待していた。 「自分個人の活動として、小学生を対象にキッズカートの大会を毎年開催しています。ひとりでも多くの子供たちにレースの楽しさを体験してもらえれば、その先に繋がっていくのではないかと思って取り組んでいます」 その佐藤が目指す理想像を実現したひとり目が、凛太郎なのかもしれない。実は凛太郎は、TAKUMA KIDS KART CHALLENGE出身。そこで佐藤が認める成績を残したことで、その後カートを本格的にスタート。FIA F4に参戦したり、HRSを受講するなどして、マカオGP出走に漕ぎ着けたわけだ。 「この”KIDS KART CHALLENGE”をやっている本当の意味は、復興支援というところなんです」 そう佐藤が言うように、このTAKUMA KIDS KART CHALLENGEは、東日本大震災で被災した子供たちを支援するために立ち上げられた「With you Japan」の活動の一環としてスタート。「モータースポーツの楽しさを通じて、復興地を応援しよう!」というのが目的であった。 「それは変わらないんですが、その子供たちにとって、挑戦する楽しさや、『やったらできた』という気付きの教材になると思っているんですよ」 「学校でできるスポーツは誰もが経験していますが、得意不得意がある。でも、クルマの運転とかモータースポーツというのは、小学生では知る由もありません。そういう”やったことのないこと”に挑戦するという意味では、良い機会だと思います」 プロのレーシングドライバーを目指す人たちは、そのほとんどが幼少期からカートで毎日のように走り込んできた、いわゆる英才教育を受けてきた者がほとんどだ。佐藤のように、大学生でカートを始め、F1まで辿り着いたというのは、近年では異例中の異例である。 しかしこのKIDS KART CHALLENGEに参加するのは、比較的普通の家庭環境で育ってきた子供たち。そこから、プロのドライバーが育っていくのを期待したいと、佐藤は言う。 「ここに来ている子は、レーシングカートに4歳くらいから乗って英才教育を受けているような子供たちではないんです。つまり、コンペティションのライセンスを持っていない子供たちなんです。ここから、プロに匹敵するドライバーが出てきてくれたら、本当に嬉しいなとずっと思っています」 「ある意味では確かに凛太郎はそのひとりになっているかもしれません。ただ彼の場合は、ここを卒業した後に、ちゃんとヨーロッパの選手権を走れたりということがあったので、今の立場まで来れたというところもあります」 「でもここを卒業した子供たちがHRSに入ってきてくれたり、F4やフォーミュラ・リージョナルに行ってくれれば嬉しいですよね」 「僕はHRSも見させていただいてますが、世界に出ていくトッププロになるドライバーは、必然とそこに来ます。今はトヨタさんも育成をやっていますので、必ずどちらかには来ると思うんですよ。そこに、このKIDS KARTから上がってきてくれるというのが、僕の希望です。そうなったら、夢があって楽しいじゃないですか!」 このKIDS KART CHALLENGEは江崎グリコがスポンサーを務めており、FINALで勝ち上がった少数のドライバーが参加するアカデミーで目覚ましい活躍を見せると「Glicoスカラシップ」を受けることができる。この制度は2020年からスタートしており、実際にこのスカラシップを得てHRSに進んだドライバーもいるという。 「レンタルカートからKIDS KART CHALLENGEならば、普通の家庭環境でもできる範囲だと思います。そこでグリコさんのスカラシップをもらって、スクールのカートクラスに上がってきた子も4名ほどいます。そこから上の壁を破ってくれることを期待していますよ」 かつてKIDS KART CHALLENGEが設立された頃は、子供たちがカートを楽しむ、ほのぼのとした雰囲気も感じられた。しかし最近では、本気で上を目指そうとする参加者が増えたと、佐藤も感じているという。熱量がものすごいのだ。 「お父さんに怒られたから泣くんじゃないんです。自分が勝ちたかったけど、勝てなかった時の悔しさで泣くんですよ。それが、大事なんです」 「彼らの本気度と情熱、これをぶつけてきてくれます。やっている我々の方も、刺激を受けますね」 そう佐藤は言う。 「この5~6年で、マイヘルメットやマイスーツを持っている子が、すごく多くなりました。それでもSLライセンスが必要なレースに出ているわけではないので……ここから上がっていってほしいですね」 そういう佐藤自身もまだまだチャレンジを続けていきたいという。そして、来年のインディ500にも参戦すべく、調整を進めているところだと明かしてくれた。 「自分もやっぱりね、チャレンジを続けたいです。なので、もちろん来年のインディ500参戦に向けて調整中です」 「HRCの育成に関して色々とやらせてもらっているので、そこで使う時間も必要です。それから、今のポジションと経験値と、自分が狙いたいところで言うと、スポット参戦の難しさってあるじゃないですか。その中でもインディ500は、それでもできると自分では思っているので、挑戦を続けていきたいです」 「それ以外のところは、どんどん若手にチャンスを掴んでもらいたいので、サポートする側に回っています」
田中 健一
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