アカデミー生え抜きの10番が携えるトップ昇格選手のプライド。名古屋U-18FW杉浦駿吾が明確にイメージする未来予想図
[9.22 プレミアリーグWEST第15節 静岡学園高 2-3 名古屋U-18 時之栖スポーツセンター 時之栖Aグラウンド(人工芝)] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 磨き続けてきたものに対しては、ちゃんと自信を持っている。来シーズンから飛び込むプロの世界。通用する部分も、通用しない部分もあるはずだけど、目の前にある目標を1つずつクリアしながら、このクラブを牽引する存在にまで駆け上がる自分をイメージして、日々サッカーボールと向き合っていく。 「そんな簡単に試合に出られるとは思っていないですけど、出れないとも思っていないので、チャンスが来た時に仕事ができれば自ずと試合に出る機会も増えてくると思いますし、そこは自分の武器に自信を持って、遠慮し過ぎずに食らい付いていけるようにということは意識してやっていきたいです」。 ハイレベルな攻撃性能を備えた名古屋グランパスU-18(愛知)のナンバー10。FW杉浦駿吾(3年=名古屋グランパスU-15出身)は着実に短くなりつつあるこのアカデミーで過ごす時間の中で、1つでも多くの勝利をみんなで喜び合うため、さらなる成長の種を探している。 「一言で言えば『自分の責任だったな』と思っていて、前半も自分のところにチャンスがありましたし、チームを勝たせられるポイントは多くあったので、自分のせいで負けたと言っても過言ではないぐらいの感じでした」。杉浦がそう振り返るのは前節のビッグマッチ。首位を独走する大津高(熊本)との一戦だ。 1点をリードされた前半の終盤。杉浦には2度のシュートチャンスが巡ってきたが、1つは枠外で、もう1つは相手GKのファインセーブに阻まれる。すると、防戦一方となった後半に2点を追加され、ファイナルスコアは0-3。優勝争いを考えても痛すぎる完敗に、名古屋U-18の選手たちが悔しさに打ちひしがれたことは想像に難くない。 だが、次の試合はすぐにやってくる。「大津の選手は本当に個の力があって、1人1人のレベルが高かったですし、やっぱり最後に試合を決めるのは個の質だったり、個の力だと思うので、『個でチームを勝たせる』ということに、よりフォーカスして取り組んできた1週間でした」。いつも以上に自身の真価を問われる試合だと位置付け、静岡学園高(静岡)とのアウェイゲームへと準備を整えてきた。 先制のチャンスは早々にやってくる。前半3分。ペナルティエリア内へ切れ込んだFW大西利都(2年)がGKに倒され、PKを獲得する。スポットに向かったのは「PKをもらった選手が『蹴りたい』と言ったら蹴ってもらって、譲ってもらったら自分が蹴るという感じですね」という10番。後輩に譲ってもらった得点機。失敗する選択肢は存在しない。 狙ったコースは左。GKが飛んだのも左。それでもゴールネットは豪快に揺れる。「読まれても止められないところに蹴る練習はしているので、PKに自信はあります」。これで今季のプレミアリーグでは、3本のPKを蹴っていずれも成功。杉浦の冷静な一撃で、ホームチームが早くも1点をリードする。 次のゴールに繋がったのは、課題として練習から取り組んできたプレーだった。9分。MF八色真人(2年)は左へ振り分け、年代別代表も経験してきたMF池間叶(3年)がボールを持つと、杉浦はすぐにイメージを共有させる。「自分はクロスに対する入り方が課題なので、今日はそこを意識していました」。 少しスピードを緩めながら、空いているスペースへ走り込むと、グラウンダーのボールを左足でシュート。ここはDFにブロックされたが、こぼれ球を大西が詰めてチームに2点目が記録される。巧みな“クロスの入り方”が呼び込んだ追加点。ただ、「あそこに入って行けたことは良かったのかなと思うんですけど、切り返して自分でも打てたかなと思います」と別の選択肢もイメージし直すあたりに、飽くなき成長欲が滲む。 後半に入ると名古屋U-18はもう1点を追加したものの、そこから立て続けに2失点を献上し、1点差まで追い上げられる。「守った後のクリアボールをマイボールにすることだったり、自分のところで時間を作ることはタスクとして考えていました」という杉浦も、時には自陣まで戻って守備に奔走。チームのために献身的なプレーをまっとうできるのも、この男の語り落とせない大事な武器だ。 結果は3-2での辛勝。「嬉しかったですけど、なんか『あ~』みたいな感じでした(笑)。3点先行できたことはチームの力ですし、自信を持っていいところですけど、2点追い上げられて苦しい展開になるのは神村学園戦もそうだったので、3点獲ってももっともっと攻撃的に点を獲りに行くことは、チームとして意識していきたいと思います」。2得点に絡んだ10番は、さらなるチームとしての進化に目を向けていた。 7月17日。クラブから来季のトップチーム昇格内定がリリースされた。それから2か月。周囲からの見られ方も変化しつつある中で、杉浦にもその自覚は確実に芽生えている。 「自分が“昇格する選手”だということはあまり考えすぎずに、今チームのためにできることを意識して、練習や試合をしているんですけど、自分としてもプライドはあるので、簡単に1対1の局面では負けたくないですし、そういうところは昇格が決まってからより意識するようになりましたね」。 今季は沖縄キャンプにも帯同し、シーズン開幕後も練習参加を繰り返してきた中で、アカデミーのある“先輩”から刺激を受けてきたという。「自分と同じシャドーのポジションをやっている森島(司)選手は本当に上手いです。ボール回しでも足元で溜める技術とか、足元で判断を変える技術があって、プレーの強度も高いですし、そういうところが参考になりました」。基準が変われば、日常も変わる。トップで味わった高い意識をチームに還元することも、しっかりと考えているようだ。 来季からチャレンジするJリーグの舞台。自身の中では既に明確なキャリアプランを描いている。「まずは1年目から試合に出ることを目標にして、3年以内に主力選手になって、5年目ぐらいに海外挑戦というところまではイメージしています。でも、自分の実力を考えても、すぐにステップアップできるとは思っていないので、もっともっと実力と自信を付けられるように、今は地に足をつけて、1個1個着実に目標をクリアしていくことを意識しています」。一歩ずつ、一歩ずつ、このクラブでステップを踏んでいく。 4歳でスクールに入り、9歳からはジュニアでプレー。小学生からかけがえのない経験を重ねてきたアカデミーで過ごす時間も、もうあと3か月あまり。ここから卒団まで全速力で駆け抜ける覚悟は、もうとっくに整っている。 「プロに向けて、ここからの1試合1試合でさらに自信の付くようなプレーにトライしていくことは、この残りの数か月で意識していきたいと思いますし、やっぱり1つでも多くの勝利をこのチーム全体で喜び合いたいですね」。 グランパスが丁寧に育んできた確かな才能。短くないアカデミーの時間で身に付けてきた“今まで”は、大きな世界へ羽ばたくための“これから”に間違いなく繋がっていく。すべては名古屋の勝利のために。杉浦駿吾。18歳。輝く未来は、自分のゴールで逞しく切り拓く。 (取材・文 土屋雅史)