驚愕…! 五重塔の大黒柱は「地面から浮いていた」…だから、大地震でも「倒れない」奈良時代から培われた「超」技術
天女のような端麗な容姿
私自身が、“倒れない五重塔”を目のあたりにしたのは、室生寺五重塔が1998年9月22日、台風7号のために大きな被害を受けたときである。先に述べたように、室生寺五重塔は私が大好きな五重塔の一つである。 室生寺は奈良県の室生山の斜面にある寺で、森に包まれるように五重塔や金堂などの伽藍が配置されている。五重塔の高さは約16メートルで、屋外に建っている五重塔としては日本で一番小さい。 室生寺は「女人高野」とよばれているが、この五重塔はまさに天女のような端麗な容姿である。階段の下から仰ぎ見る五重塔は、周囲の杉木立に溶け込んでいるかのごとく美しい。
台風直撃でも倒れなかった
この美しい五重塔が痛々しい姿になった。 太さ1.5メートル、高さ45メートルの杉の大木が西からの強風で根のところからなぎ倒され、五重塔の西北の庇(ひさし)を上から下まで見るも無惨な姿に破壊したのである。不幸中の幸いだったのは、この大木が「心柱」を外して倒れたことだった。 この台風の直後、私は現場に駆けつけ、倒れた杉の大木と“半身創痍”の痛々しい五重塔を自分の目で見たのであるが、あらためて“倒れない五重塔”に心を動かされた。台風による強風に杉の大木は倒されたが、可憐な室生寺の五重塔はもちこたえたのである。 さすがの強風も五重塔を倒すことはできなかった。 室生寺の五重塔は2年後の2000年10月、松田敏行棟梁らによって見事に修復された(松田敏行著『室生寺五重塔千二百年の生命』、祥伝社、2001)。
五重塔の「構造」を見る
以下、高層建造物でありながら、地震や大風で倒されることがない日本の木塔の構造を検討していくにあたり、五重塔を木造多重塔の代表として話を進めることにする。 日本の五重塔は、中国の空筒構造の楼閣式仏塔とは異なり、上層に登るような構造にはなっていない(1959年に再建された現代の四天王寺五重塔は例外)。日本の五重塔で人間が入れる(入る)構造になっているのは、初重のみである。初重には通常、本尊や四仏像などが安置されている。 たとえば、青森・青龍寺五重塔の初重には、大日如来とみなされる八角形の心柱の周囲四方に普賢菩薩(東南)、文殊菩薩(南西)、観世音菩薩(西北)、そして弥勒菩薩(北東)の姫小松材を使った寄せ木造りの木像が安置されている。 日本の五重塔が、上層に登るような構造にはなっていない、つまり、楼閣や展望台のような実用的目的をもたないのは、これらの仏塔が純粋に仏教上の卒塔婆(そとば)であり、同時に“見られる”ことを目的とする建築物だからである。 上層に登ることを目的とする塔ではないが、初重から四重までの天井にあけられた、小さな上り口から梯子を使って五重まで登ることは可能である。私は、かなり窮屈な思いをして、完成直後の青森・青龍寺五重塔の五重まで登る機会を得た。 五重塔の中は木組みの塊である。 二重あたりは多少、空間的な余裕があって、立つこともできるが、上層へ登るにつれて木組みの密度が高くなり、腰をかがめないと動きが取れなくなってくる。図「青龍寺五重塔の内部(五重)の木組み」は、青龍寺五重塔の内部(五重)の木組みを示すものである。 優美壮麗な外観からは想像できないような、空間をぎっしりと埋めるむき出しの木のかたまりと空間に充満する真新しい青森檜葉の香りに、圧倒される思いであった。