驚愕…! 五重塔の大黒柱は「地面から浮いていた」…だから、大地震でも「倒れない」奈良時代から培われた「超」技術
五重塔からの絶景
茶室の躙(にじ)り口よりもずっと小さな、高さ50センチメートルほどの“かしたみ”とよばれる戸口から地上約21メートルの五重の回廊へ這(は)い出ると(図「青龍寺五重塔の五重回廊」)、そこには、うっすらと雪に覆われた青森市郊外のすばらしい眺望が開けていた。
驚異的な耐荷重性
いま、五重塔は木組みの塊であることを述べた。 それでは、その木組みは建築物として、どのような構造になっているのだろうか。高層建造物でありながら、地震や大風に強い日本の木塔を生み出す構造とは、どのようなものなのだろうか。 塔の中心を太い心柱が貫いているが、この心柱の直接的な役割は相輪(塔の先端部)を支えることであり、塔そのものの構造とは無関係である。つまり、最も太い柱であるにもかかわらず、心柱は塔の荷重を支えることにはまったく貢献していない。なにしろ、宙吊りの心柱もあるくらいなのである(宙吊りでは、塔の荷重を支えるのは不可能でる! )。 心柱のほかに、五重塔の構造の大きな特徴として、各重を貫く「通し柱」が一本もないことがある。つまり、五重塔は鉛筆のキャップあるいは帽子が5個積み重なったような「キャップ構造」になっているのだ。 五重塔の全荷重は、たとえば法隆寺の五重塔では4本の四天柱と12本の側柱(かわばしら)、つまり16本の柱で支えることになる。法隆寺五重塔の総重量はおよそ120万キログラム、16本の柱の合計底部面積は6.416平方メートルといわれる(西岡常一・小原二郎著『法隆寺を支えた木』NHKブックス、1978[2019年改版])。これらの値から、柱の底面積1平方センチメートルあたりにかかる荷重を計算すると、約18.7キログラムになる。 標準的な大人の両足の底面積は500平方センチメートル程度である。体重が100キログラムの人ならば、足の底の1平方センチメートルあたりにかかる荷重は0.2キログラムである。極端な例として、体重200キログラムの力士の場合を考えて、仮に両足の底面積が標準的な大人と同じ500平方センチメートルだとしても、1平方センチメートルあたりにかかる荷重は0.4キログラムにすぎない。 法隆寺五重塔の初重の柱には、1平方センチメートルあたり、およそ20キログラムの荷重がかかっている。二足歩行の人間の場合(他の動物の場合でも同様であろう)と比べ、まさに桁違いの大きさの荷重である。しかも、法隆寺五重塔の柱は、そのような巨大な荷重に、1300年以上もの間、耐え続けているのである。驚異的なことだ。 五重塔を、そのような驚異的な荷重ばかりでなく、地震や大風にも耐えさせているのが、きわめて巧妙な木組み構造なのである。