飲食業界に見切りをつけホストクラブの広報に転職…歌舞伎町で、夜だけ営業するケーキ屋店主の描く未来
過去にはホストクラブに子どもたちを招いて夏祭りも…街の活性化につながる柔軟な発想
次から次へと、アイデアがどんどん湧いてくる岳野さんだが、ここに至るまでの経歴も興味深い。 最初はリッツカールトンやヒルトンといったホテルで宴会やラウンジ、フロントなどさまざまな仕事を経験。やがて「着物の着付けができるから」という理由でホテル内の和食レストランに配属され、女将稼業がスタートした。 ホテルで働くうちに、英語が話せないのは営業的に厳しいと感じるようになり、ロンドンやパリの料亭などで修行を積み、語学も習得して帰国。銀座で女将を担当した割烹はミシュラン二つ星まで育て上げた。だがまったく給料は上がらず、飲食業界に見切りをつけた矢先、お客さんの一人にスカウトされた。 「いつもモデルさんみたいな男性を連れてくるので、芸能事務所の方かなと思っていたんですよ。で、お話を聞きに行ってみたらホストクラブの方でした。 『あ~、行ったことないし、あんまり好きじゃないし、どうしようかな』って思ったんですけど、業界にSNSがまだ普及しておらず『これだったら私、けっこうサポートできるかも』と思って入り、結局5年いました」 仕事は、いわば広報。女将時代に手がけたイベントなどを見て、その企画力に白羽の矢が立ったようで、「なんか盛り上げて」と言われたそうだ。 「SNSでホストクラブの遊び方や社畜ぶりを面白おかしく発信してたら、いろいろと取材されるようになって。最終的にはマーク・ジェイコブスさんていうブランドが春夏コレクションのアフターパーティー会場に選んでくれて、小室哲哉さんのDJでひと晩限りのファッションショーを開催することになり、世界中からセレブが集まってきました」 ホストクラブ時代は煌びやかなイベントばかりではなく、時には子どもたちのためのボランティア活動も。 「児童養護施設の子どもたちにお店に来てもらって、ホストクラブ主催で夏祭りのようなイベントを何回かやりました。豪華でラグジュアリーな空間にオレンジジュースのタワーや、お菓子を詰め込んだプールを作ったり」 ホストクラブというだけで、施設職員に偏見を持たれることも多かったという。それでもあきらめず何軒にも声がけしたのは、内情を知る者の思いがあったからだ。 「ホストの中には施設出身の人もけっこういるんです。ホストクラブに行ければまだいいほうで、回り回って反社とか、オレオレ詐欺のような闇バイトをやってしまう人も多くて。 なので水際対策じゃないですけど、『大手グループは意外と仕組みがしっかりしてますよ。ちゃんとした会社組織なので、もしもそうなるんだったらうちのグループに来てくださいね、何かあったら頼ってくださいね』っていうところがあって。物やお金を贈ることは簡単ですが、それよりも思い出に残るような体験を差し上げたいなという気持ちでやっていました」 SNSのエキスパートとして起業したのは、コロナ禍のときだった。周りの友人には飲食業が多かったので、SNSの活用法を教えているうちに、それがいつの間にか仕事になったという。そこからケーキ屋さんを開店したいきさつはというと……。