普通の人より苦労したから、離婚とか嫌なんで--アンガールズ田中卓志の「幸せ」
高校を出てすぐにお笑いの世界に飛び込んだら、挫折していたと思う
「奥さんに嘘だけはつくな」が、相方山根からのアドバイスだ。 アンガールズはPodcastの番組で、夫婦生活についても赤裸々に語っている。山根は結婚・子育ての先輩だが、田中は子育てのイメージを持っているのだろうか。 「熱を持って『欲しい』っていう感じでもないんですけど、まあ、なんとなく、考えるようにはなりましたね。あまり現実味はないです。まあ、生まれたら考えるのかも」 もし生まれた子どもが、「将来はお父さんのようにお笑い芸人になりたい」と言ったら? 「本当にやりたいなら、やってみれば、と思います。俺も相当、親には反対されましたけど。やるからには、相当熱量がないと続かない。どんな仕事もそうだと思いますけど、お笑いは……特に気持ちが軽いと、もつような世界じゃないから」
広島大学で建築を学んだ田中は、大手企業への推薦話を断り、両親には「大学院に進学する」と嘘をついて上京した。その嘘が母親にバレたときが「人生で一番の修羅場だった」と、初エッセイ集『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』にも綴っている。 「建築は本当にやりたかったこと。だけど、お笑いの世界に憧れてしまった。大学も一浪して入ったし、勉強したことをなしにしてお笑いをやるのは、親に対しても、大学の先生にも失礼なことだとはわかっていました。だからこそ、必死でやらないとダメだなと。積み上げてきたものを全部なくしてまでやるんだという気持ちが、より熱量を高めたと思います。最初からお笑いに行かなかったのが、僕としてはよかった。例えば、高校を出てすぐにお笑いの世界に飛び込んだら、挫折していたと思う。勉強したことを捨ててまで飛び込むという、ギリギリの気持ちがあったから、続けられたんじゃないかと」
若い人たちと、俺たちがやる仕事って、また微妙に違う
デビュー、再ブレイク、結婚など、これまでいくつものターニングポイントがあるが、田中にとって人生最大のポイントといえば、やはりこの「上京」だ。 「一番悩んだ時期ですね。今おじさんになって考えてみたら、よくそんな行動をとったよなと思う。親は泣いちゃうよね。大人になったらわかるんですけど、若くないとできない行動でもある」 現在、各事務所がスクールやセミナーを運営したり、SNSで個人発信できるなど、お笑い芸人になる手段はこの20年あまりでずいぶん増えた。 「今は、気軽になれるという空気があると思うんですけど、俺らの頃ってもっと、ヤバい感じでしたよ。『エンタの神様』以降、今やほとんどのテレビ番組にお笑い芸人が出てますけど、その前って、芸人がいない番組の方が圧倒的に多かった。露出するにも、ライブとか、どこかの番組のオーディションに引っかかるしかないという感じ。必死でしたよね」 現在のお笑いの世界を眺めてみると、田中はまた複雑な気持ちを抱くという。