中学受験「過去問」の好得点に不自然な消し跡…息子を追いつめた合格のプレッシャー
帰宅した目に飛び込んだ「メチャクチャ」なリビング
ぼくが帰ったのは、孝多が塾に行ってからだった。リビングはメチャクチャなままで、サッカーボールが転がっていた。教科書や鉛筆など、あらゆるものが床にぶちまけてある。 「派手にやったな」 「私、もう限界だよ」 妻は疲れ切ってソファに寝ている。ぼくはテーブルを立て直し、ゴミ袋を持ってきた。ここまで堕ちたら、目の前の現実を否定しても仕方ない。 「大掃除でもするか。年末にやらなかったから、ちょうどいいよ」 「よく平気でいられるわね。もうあの子の面倒は見たくないから」 「ママはお疲れさま。後は俺がやるから、勉強のことはいわなくていいよ」 ぼくはリビングに散らかったものを、ゴミ袋に入れていった。もう1月も半ば。二週間も経てば、必要なくなるものばかりだ。今から見返すことのできるテキストも限られているだろう。もう受験しないのならべつだが、このまま走り続けるのであれば、環境を整えることに徹したほうがいい。 「ご飯は作るけど、もう私は受験に一切かかわらないからね」 しばらくは、妻が孝多とコミュニケーションを取るのはむずかしいだろう。2月1日の試験本番まで、あと2週間しかない。この最悪の雰囲気で試験を迎えるために、今までの3年間があったのだろうか。家族全員が追い詰められていた。
森 将人(元証券ディーラー)