習志野、初の春4強 エース好投、逆転呼ぶ /千葉
<第91回センバツ高校野球> 接戦を制し、センバツ初の4強進出をつかんだ--。第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第9日の3月31日、習志野は第1試合で市和歌山(和歌山)との準々決勝を4-3で制し、準決勝に駒を進めた。一回に1-3とリードを許したが、継投の飯塚脩人投手(3年)が初戦から3試合連続無失点の好投を見せ、打線も中盤から粘り強く得点を重ねて逆転勝利を収めた。県勢のセンバツ4強進出は2008年の千葉経大付以来11年ぶり。習志野は大会第10日の今月2日午前11時から明豊(大分)と決勝進出をかけて対戦する。【秋丸生帆、高井瞳】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 初回、両チームが点を取り合う展開になった。一回1死三塁から、2回戦で右足を痛めた根本翔吾主将(3年)に代わって3番に入った角田勇斗選手(2年)が相手の直球を捉え、中前適時打を放って先制。しかし、直後に先発した下手投げの岩沢知幸投手(3年)が4連打を浴びて一挙に3失点。2点を追う展開となった。 「まだまだこれから。今日は打ち勝つぞ」。スタンドから選手を鼓舞する声援が響くと、継投した飯塚投手が試合を作る。二回、無失点に抑え、三回には味方の失策が重なり1死三塁のピンチを迎えるが、続く打者を三振に。吹奏楽部の渡辺瑞希さん(2年)は祈るような気持ちでフルートを握り締め、「気持ちで抑えてほしい」とつぶやいた。すると、145キロの直球で右邪飛に打ち取り、続く四回も被安打1に抑える。 「無失点に抑えていれば、打ってくれると思っていた」という飯塚投手。思いが通じ、五回から習志野の反撃が始まった。 角田選手が内野安打で追加点を奪い、六回には飯塚投手自ら中前適時打を放って同点とした。この日、定年を迎えた吹奏楽部顧問の石津谷治法教諭(60)は「教師生活38年。いい記念日にしてくれた」とメガホンをたたいて満面の笑みを浮かべた。 七回、再び相手の直球を捉えた角田選手が3本目の安打で出塁すると、チャンスで流れる「レッツゴー習志野」が鳴りやまなくなった。桜井亨佑選手(2年)の内野ゴロが相手の失策を誘うと、高橋雅也選手(同)の内野ゴロ間に角田選手が本塁を踏んで逆転。スタンドの吹奏楽部員たちは涙を流しながら抱き合い、一般客も巻き込んでの「レッツゴー」コールがこだました。 大歓声に応えるように、飯塚投手は相手のスコアボードに0を並べていく。バトン部の高橋ひかりさん(3年)は「安心でき、うれしい気持ちになる」と手をたたきながらマウンドを見つめる。六回以降は、自慢の直球で自己最速の146キロも記録し、相手打線を無安打に抑える。最後の打者を空振り三振に打ち取ると、歓喜の渦の中、ガッツポースで試合を締めくくった。 勝利の余韻が残る中、会場を後にする応援団の足取りは軽く、飯塚投手の父信幸さん(48)は「めったに見られない打点も出た。今日ばかりは褒めてやろうと思います」とタオルで目頭を押さえた。 ◇2人指揮で美爆音 ○…200人を超える習志野吹奏楽部の部員が奏でる「美爆音」は2人が同時に指揮を執る。縦に長いアルプススタンドでは、後方の列から最前列にいる指揮者を見ることができないためだ。そこで、アルプススタンドの一番下に主指揮、中段には主指揮の動きを伝達する副指揮を置き、部員全員が息の合った演奏をできるようにしている。主指揮の酒井悠歌さん(3年)=写真=は「『美爆音』には副指揮の存在が欠かせない」。副指揮の加藤昇竜さん(同)は「息の合った演奏で、選手の背中を押したい」と語った。 ◇マフラー掲げ校歌 ○…スタンドの一体感を高めるため、野球部保護者協力会は選手のトレーナーの配色に合わせ、えんじ色に黄色のラインの入った校名入りのマフラーを新調した。住田洋介選手(3年)の母友子さん(42)は「千葉と甲子園を往復して大変だけれど、保護者みんなで頑張って応援します」と話し、声援を送る。試合に勝利すると、マフラーを掲げて校歌を歌うのが習慣になっており、小西薫校長も「ここまできたら優勝しかない」と両手で掲げて校歌を歌った=写真。 ……………………………………………………………………………………………………… ■白球譜 ◇夢舞台、更なる成長 飯塚脩人投手 習志野・3年 2回戦で優勝候補を退けた右腕は準々決勝も8回を被安打4、無失点に抑えた。小林徹監督は「気持ちのこもった投球を見せた」と健闘をたたえた。 両親は共に日本郵船の元バスケット選手だが、小学1年のころに友人に誘われて野球を始めた。中学では控え投手で3年最後のチームの試合は地区予選で初戦負け。高校入学直後も「ふるいからこぼれ落ちた子」と小林監督から表されるほどで、170センチ80キロの体形から練習について行けず、球速も伸び悩んだ。 変えたのは、試合で活躍する先輩たちへの憧れだった。走り込みで体重を減らし、身長とともに球速が伸びていった。昨秋の関東大会では自己最速の145キロを記録。注目を集めるにつれ練習にも気合が入り、冬には130キロのバーベルでスクワットを繰り返し、食生活も変えた。冬が終わるころには「体つき、意識が明らかに違う。注目されたことが彼を変えた」と小林監督も目を細める。 甲子園入りしてから全3試合に登板し、いずれも無失点。この日は六回に同点打も放った。八回に左膝に打球を受けた後も「絶対投げさせてください」と小林監督に懇願した。心も体も成長した右腕は夢の舞台で更なる成長を遂げようとしている。【秋丸生帆】