かつては「選挙運動」も? 販売効果は健在 45年迎えたカー・オブ・ザ・イヤー【けいざい百景】
◆“票集め”で海外試乗会も かつては影響力の大きさから選考委員への“選挙運動”も展開されたとうわさされたこともあった。選考委員経験者の著書などによると、バブル期、選考委員に乗用車を長期に無料で貸し出した上、後に低価格で譲る条件を付けたメーカーもあったという。さらに、別のメーカーは海外で試乗会を開催、渡航費用などは会社持ちだったこともあったようだ。日本経済が絶頂期を迎えていた時期だっただけに、賞のニュース性への期待から各社の活動もエスカレートしていったのかもしれない。 ただ、2000年代前半まではこうした活動もあったが、その後は徐々に減り、08年のリーマン・ショックを経て沈静化が進んだとされる。今年のCOTYで選考委員を務めた自動車評論家の国沢光宏氏は「昔は自動車メーカーもお金があった。そういうのもどんどんなくなり、今は(COTYの時期に)メールの件数が増えるとか、その程度」だと語る。出来レースなどと批判されることもあるが、国沢氏は「仮に出来レースなら今年のホンダ・フリードはもっと点数が伸びていたはずだ」と指摘する。「皆さんが考えるような利権めいたものはない」と強調。COTY実行委員会の幹部も「クリーンな状態だ」と断言する。 各社の技術も進歩し、車の基礎性能に違いが出にくくなっている一方、SUVやミニバン、セダンなど種類が多様化し、何を基準に選考されているかが不明瞭だとの指摘も出ている。セールス方面への影響もかつてほどではなくなっているといい、「エンジニアには励みになるが、営業的には関心が薄れている」(大手メーカー関係者)との声が上がる。「昔のように何が何でも取ろうという感じはない」(別の関係者)と冷ややかな意見も聞かれる。 ◆潮流に変化も それでも一定の意義があるとみる向きは多い。ベストカーを受賞したメーカーは、テレビCMなどでアピールし、温度差はありつつも積極的に販促活動に取り入れている。評価基準が曖昧との批判はあるが、選考委員の評価コメントがホームページ上に開示されており、誰がどの車種に持ち点を入れたかも明らかにされる。 最終選考会にはお笑いコンビ「おぎやはぎ」を司会進行役に起用。イベント性も高まっており、「社の力の入れ具合で決まり、純粋な車の評価ではなかった」(関係者)時代とは決別した。 一次選考の10車種の顔ぶれにも変化が表れる。最近は中国EV大手の比亜迪(BYD)や韓国の現代自動車など中韓勢が上位に食い込む。24年はBYDの「SEAL(シール)」(8位)、現代の「IONIQ(アイオニック)5N」(6位)がそれぞれランクインした。BYDは24年、世界新車販売台数でホンダと米フォード・モーターを抜く可能性があるとも報じられ、世界の勢力図がカー・オブ・ザ・イヤーにも反映されつつある。 国沢氏は「日本の自動車が黎明(れいめい)期に海外へ出て行った時も、お客さんには無視されたが、現地のジャーナリストがフェアに評価してくれた」と話す。COTYを通じた中国や韓国勢への正当な評価が日本メーカーへの危機意識につながり、健全な競争環境をつくると指摘する。こうしたトレンドの変化を映す役割も、COTYの意義の一つと言える。来年以降も各社の力作が火花を散らす、熱い選考会を期待したい。