川崎が名古屋との”首位攻防戦”で証明した「真の堅守」とは?
三笘がボールをカットしてから旗手が先制点を決めるまで、要した時間はわずか18秒だった。リーグ最少失点という数字を介して、名古屋が抱いてきた堅守のプライドをへし折る先制点を、川崎の鬼木達監督も「ゲーム全体を通しても非常によかった」と高く評価した。 「自分たちらしく攻め切る、をテーマにして臨んだなかで、しっかりとそれを体現してくれた」 風間八宏前監督(現セレッソ大阪スポーツクラブ技術委員長)時代に植えつけられた、ボールを「止める、蹴る、人が動く」を介した攻撃力を、鬼木体制になった2017シーズン以降でさらにレベルアップ。その上で攻守の切り替えの速さと、球際の攻防における激しさを融合させてきた。 進化の過程でテーマにすえられた「即時奪回」の効果は、具体的な数字にはっきり反映されている。13試合を終えた段階の1試合あたりの川崎の被シュート数はわずか「6」で、サガン鳥栖の「6.7」、名古屋と鹿島アントラーズの「7.1」を上回るリーグ最少にランクされている。 相手チームにシュートを打たれる回数が少なければ、必然的に失点する確率も減ってくる。実際に川崎の失点数は「8」で、ガンバ大阪の「4」、鳥栖の「5」、名古屋の「7」に次いで少ない。ただ、ガンバは消化試合数が6つも少ない状況を加味しなければいけない。 敵陣の高い位置でマイボールにする「即時奪回」は川崎の被シュート数を減らし、自慢の攻撃力で対戦相手を畏怖させる時間帯も増加させている。昨シーズン全体の被シュート数を見ても、川崎はリーグ最少の「264」で、2位の名古屋の「293」に大差をつけていた。ピッチ上で攻防一体を具現化している川崎のスタイルこそが、本当の意味で「堅守」と呼ぶにふさわしい。 旗手の先制点で主導権を握った川崎は、前半10分と23分にダミアンが追加点を決めて一気に勝負を決めた。特に前者のシーンでは、ペナルティーエリア内に5人、その周辺に3人のフィールドプレーヤーがいながら、左サイドでボールを受けた家長へプレッシャーをかけた選手は皆無だった。 ゆえに家長は十分すぎる余裕をもって、正確無比な精度を誇る利き足の左足からクロスを供給した。標的はファーサイド。身長188cmのダミアンを167cmのDF吉田豊がマークしているミスマッチを見逃さず、吉田を吹っ飛ばしながら決めたダミアンの一発を導いた。 9試合連続無失点のJ1新記録を達成した名古屋の守備は、重心が自陣へ下がり気味になる傾向が強い。1点を奪って逃げ切る「ウノゼロ」の勝利がすでに5度を数えていたが、川崎の「即時奪回」の前にゲームプランを狂わされ、最終的には昨シーズンも経験していない4ゴールを奪われた。