五月病、HSP、カサンドラ症候群、自律神経失調症は病気じゃないのか? それでもこれらの症状をほうっておいてはいけない理由
その医療情報は本当か #2
自分ではこの病気だと思い込んでいても、別の病気の症状のひとつであることや、よく聞く症状名が実は医学的な病名ではない場合がある。 【画像】病気じゃないから放っておいていいわけではない 本記事では、書籍『その医療情報は本当か』から一部抜粋し、「五月病」「HSP」「カサンドラ症候群」「自律神経失調症」といった身近な症状名について、医療現場からの見解をもとに解説する。
「五月病」は病名ではなく俗称
結論から言うと、五月病、HSP、カサンドラ症候群、自律神経失調症は、どれも病名ではありません。 まず、「五月病」とはよく知られるように、春の大型連休明けに、「学校や職場に行く意欲がわかない」「気分が落ち込む」「不安がつのる」「食欲がない」「体がとてもだるい」「なかなか眠れない」といったメンタルの不調の総称として用いられます。 1960年代後半に流行語となったとされ、そのころは、受験を終えた新入学の大学生や、クラス替えなどで環境が変わった小中高生、また新社会人に特有のことと考えられていました。 実際には、中高年の場合でも会社での異動や昇進、家族らの状況など環境の変化によって同様の症状がみられることから、近年では年代や職業を問わずに広く一般に使われます。 また、5月の連休明けから徐々に気力が低下し、6月になってより症状が強くなってつらい、という人が増えていることから、「六月病」と呼ばれることもあるようです。 ただ、ここで伝えておきたいのは、「五月病や六月病は俗称であり、医学的な病名ではない」ということです。 連休が明けると、メディアでは盛んに「五月病に注意」という情報が発信されていますが、あたかも病名であるかのような表現もみられます。患者さんの中にも、五月病を病名だととらえている人が多いと感じています。
五月病は「5月の病気」ではない
学校や職場、家族、対人トラブルなど明確な原因と考えられるストレスがあり、それに起因して先述の症状のように無気力や気分の落ち込み、食欲不振、不眠などがあり、日常生活に支障がある場合、医学的には「適応障害」に該当します。その場合、原因がなくなれば症状は改善することが多いです。 また、明確な原因の有無にかかわらず、そうした症状が2週間以上にわたってほぼ一日中続く場合は、「うつ病」のケースもあります。 ただこの五月病、毎年連休中からニュースになり社会問題化していますが、これまで大規模なデータに基づいて、正確にこの時期にメンタル不調のケースが増えるということを証明した研究は、わたしの知る限りではありませんでした。 しかし、2023年に名古屋市立大学精神医学教室の白石直講師が発表した論文で、その存在が明らかになりました。わたしも共著者です。研究の概要はこうです*1。 2019年から2021年の日本の大学生1626人のうつ症状の推移を調べました。新型コロナウイルスが蔓延した時期と重なるため、この研究の当初の目的は、緊急事態宣言が発令された時期に大学生のメンタルヘルスが悪化したかどうかを調べることでした。 結果的には、緊急事態宣言の影響は明らかではなく、それよりも新学年が始まった春先にうつ状態が強くなっていました。 このことから、たしかに「大学生にとって、5月を含む春先は要注意」といえることがわかりました。
【関連記事】
- 「カサンドラ症候群という言葉に逃げているんじゃないか」という声も多くて―。発達障害の家族をもって悩む人々に寄り添えるよう漫画で描きたかったこと
- 【漫画】アスペルガー症候群のパートナーを持つ人が発症しやすいカサンドラ症候群とは? どんどん孤立して笑えなくなる苦しみ
- 「自分は他人の心がわからない。わかろうと思ってもわからないんだよ!」39歳ひきこもり男性が自分のいじめの過去を打ち明けるきっかけとなった兄の悲痛な叫び
- 「この国にもっと精神病患者が、増えればいいと思っています」というセリフの真意は? 日本社会に巣くう“心の問題”を救うスーパードクターを描いた漫画『Shrink~精神科医ヨワイ~』がヒットした理由
- 自殺率は先進国で最悪レベル…隠れ精神病大国、日本の“心の闇”を描いた異色の漫画。NHKドラマ化の先に見据える日本の精神医療への期待「この国には苦しむ心を持つ人を待ち受ける甘い罠が多すぎる」