国連事務総長が「5大国」を批判 ワガママな「ジャイアニズム」国家の行方は?
藤子・F・不二雄原作の「ドラえもん」の登場人物の一人にジャイアンがいます。「お前のものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という有名なセリフからうかがえるように、わがままなガキ大将という役柄です。 G7は本当に先進国の集まりか? アフターコロナの世界における「キャッチアップする経済」と「埋まらない文化の溝」 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、アメリカ、中国など国連安全保障理事会の常任理事国をジャイアンに例えたうえで、これからの世界の在り方を考えます。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
5つのワガママ国
少し前(7月18日のオンライン演説)、国連の事務総長アントニオ・グテーレス氏が、世界の「5大国」に対して「70年以上前に世界の頂点に立った国々が、国際機関の力関係の転換を要する改革を拒んでいる」と批判した。 「5大国」という言葉が、国連安全保障理事会の常任理事国を指すことは明らかだ。つまり「アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国」という5つの国を批判したのである。これは少し面白い。冷戦構造下にあっては、あるいは中国の力がまだこれほどでない段階では、出なかった発言ではないか。 グテーレス氏は、ポルトガルの政治家で、もとは電気工学者であったようだ。従来、国連の事務総長は、政治的にも思想的にも偏りがない立場で物事を処理するという前提で、あまり力の強くない中立的な国から選ばれており、しかもグテーレス氏は、新しく公平を期すために決められた公募と公聴会を経て選ばれた最初の事務総長なのである。 要するに、世界のほとんどの国の意見を代表すべき人物が、国連の中心たる米、英、仏、ロ、中の「5大国」を名指しで「ワガママだ」と明言したのだ。実はわれわれも何となくそう感じていた。しかし実際に国連の事務総長を務めてみると、ハタで見る以上にそのワガママが実感されるということだろう。「世界でもっとも困難な仕事」とは、初代事務総長トリグブ・リー(ノルウェー)の言葉である。 安保理の常任理事国とは、1945年の国際連合発足のときに、第二次世界大戦後の戦勝国によって形成された支配体制であり、メンバーの顔ぶれにそれ以外の意味はほとんどない。そして安保理の決定に関して1カ国でも反対すれば決議できない「拒否権」という強い権限をもち、戦後75年経った今でも、その権限を振りかざして、国連決議を邪魔しているということである。 当時はそういった国々が、国際平和を守る自由で民主的な社会であると考えられたのかもしれない。しかしその後の歴史を振り返ってみれば、まさにこれらの国々こそが、(すべてではないにしても)もっとも平和を踏みにじる国であり、あまり自由でも民主的でもない社会であったことは明らかである。さらに核兵器、地球温暖化、海洋ゴミ、資源の浪費といった、人類共通の問題に対しても決して積極的とはいえなかった。ここまできてこれらの国々が単に戦勝国であったにすぎないことが露呈したのだ。 ひょっとするとこの見方から、新しい世界観が生まれるかもしれない。「もうひとつの陣営論」が誕生するのではないか。前回のG7論の続編として読んでいただきたい。