「サディストの女性」の方が優しい…虐待、学校や自衛隊でのいじめを経て、43歳AV男優が思うこと
自衛隊でもいじめを受ける
高校時代、辺土名さんは半年ほど父親と継母のいる家庭で暮らした。 「都立高校に入るためでした。東京都在住でないと通えないので、やむなく彼らと暮らしたのですが、家庭は休まる場所ではありませんでした。継母は陰湿な人で、私物を勝手に処分する、私のお弁当にだけ腐ったものをわざと入れるなどの嫌がらせに耐えられず、祖父母の自宅に舞い戻りました」 高卒後は大学進学を望んだが、祖父母の経済的状況を考慮して自衛隊に入隊した。 「年金暮らしの祖父母に無理を言えないので、自衛隊で稼いで学費を貯めようと思いました。自衛隊は体力長者の集まりですから、私のような少し格闘技をかじった人間が標的にされればなすすべはありません。同期で柔道のインターハイ出場者から執拗な暴力を受け、辛かったのを覚えています。また、訓練中にツツガムシに刺されて重症化してドクターヘリで搬送されたときは、上官から『お前ひとりのためにこれだけ多くの人員も動いて、ヘリまできたんだ』とネチネチ言われました。 自衛隊を辞めたあとは大学ではなく、ゲーム制作の専門学校や映画製作の専門学校へ入りましたが、『趣味が気持ち悪い』と受け入れてもらえず、孤独でした」 普通にしているつもりなのに溶け込めず、蚊帳の外に置かれ続ける。辺土名さんは家庭にも社会にも居場所がなく、さまよい続けた。だがそんな折、30歳を目の前にして飛び込んだAV業界で重宝され、その先に別の出会いがあった。 「ここ最近、いわゆる”S女”と呼ばれる、男性を虐げたい女性たちによるイベントに呼ばれることが増えたんです。そこで交流があり、とても仲良くさせてもらっています」
Sの女性の方が優しい
サディズムを抱えた女性が主催するイベントは、自らの性癖を恐る恐る打ち明ける必要がない。社会生活で忌避されがちなことも、素直に口にできるのだと辺土名さんは言う。 「そこに集まっている人たちは何かしら社会の規格に合わない性癖を持っているので、それを理由に敬遠されることがありません。自分の深い部分を最初から晒した状態で会うからこそ、仲良くなれるのかもしれません」 他人を虐げたいという欲求にかられた女性たちを、カメラが回っていない場所で受け止めることに恐怖感や恐怖感はないのか。 「多くの場合、イベントの外においては、私が社会で接してきたどの女性たちよりもみんな優しいと感じます。蹴られているのに変な話ですが、人の痛みがわかる人たちだと思います(笑)。多かれ少なかれ、性癖の歪みはそれまでの人生の歪さを表す部分があるのではないかと思うんです。だから、同じように苦労した人同士はわかり合えることもあるのかもしれません」 辺土名さんの語り口は穏やかで、悲惨な状況に置かれた過去の自分をありのままに受け入れてすべてをオープンに話す。年端もいかない子どもを蹴る母親の、紛れもない虐待行為。それを性的快楽に結びつけるという一種の”バグ”が、これまで与えられてこなかった居場所を作った。それは十分すぎる皮肉にも幸運にも聞こえる。 自分の顔面を蹴るS女のほうが、社会で出会った人たちよりずっと優しい――そう話す辺土名さんの裡にある無数の傷に、思いを馳せずにはいられない。けれども出会うべき人たちの集いにようやく加わった彼は、最後に滑り込んだジグソーパズルのピースのように馴染んでこちらに微笑んでみせた。
黒島 暁生(ライター・エッセイスト)
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