「絵本作家になって世界中を笑顔に」夢のバトン、娘から受け継ぐ大西優子さん TOKYOまち・ひと物語
『ビーズのおともだち』という絵本を一冊一冊丁寧に、そしてどこかいとおしそうに梱包する。大西優子さん(42)は絵本の販売イベントを間近に控え、準備に追われていた。絵本の作者は娘の和花(わか)さん。2年前、小児がんのため、12歳という若さで、この世を旅立った。「絵本作家になって、世界中の人を笑顔にしたい」。和花さんの夢のバトンを、母の優子さんが受け継ぐ形で、絵本を世界へ発信している。 【写真】「ビーズのおともだち」(ニジノ絵本屋)の作者、おおにしわかさん ■舞台は病院のベッドの上 「しとしとしと ざーざーざー。あめが つよくなってきました」。絵本は入院中の少女が、病室の窓から外を眺める場面から始まる。舞台は病院のベッドの上。タイトルにもなっている「ビーズ」は、実際に和花さんがつらい手術を乗り越える度に医療スタッフからもらっていた健闘の証だ。絵本の中では、ビーズは妖精へと変身し、少女を勇気づける存在として描かれている。妖精たちが作中で度々口にする「がんばりパワー!」は、和花さんが治療に打ち勝つために使っていた魔法の言葉だ。 ビーズの妖精の繊細なタッチは、タブレットとタッチペンを駆使して、表現。一つ一つ、名前や容姿にもこだわって制作されている。例えば、話の中盤に登場する妖精「めいちゃん」は、和花さんの治療に使用された放射線=透明というイメージから名付けられた。色合いは透明に近い黄色を使用。表情は明るい笑顔で、踊っているように仕上げるといった工夫が施されている。 ■デビュー3か月後に… 「幼稚園のころから、絵と工作が好きだった」。優子さんによると、和花さんは幼いころから想像力豊かで、「自分で何かを生み出す楽しさを感じていた」という。 和花さんが初めて絵本作家になると宣言したのは、4年前の1月、小学3年の学芸発表会だった。「娘がたくさんの人の前で発表したのを見て、本気で絵本作家になりたいんだ」と優子さんも覚悟を決めたという。 「絵本を作る絵本屋」として知られるニジノ絵本屋に協力を仰ぎ、和花さんはプロの絵本作家やイラストレーターとともに、『ビーズのおともだち』の制作に取りかかった。優子さんも夢の実現をサポート。試行錯誤を経て、令和4年4月8日、和花さんの12歳の誕生日に「おおにしわか」という一人の絵本作家がデビューを果たした。 夢が現実となった3カ月後、和花さんは妖精たちとともに空へ飛び立った。