【大河ドラマ「べらぼう」】蔦屋重三郎がいなければいまの浮世絵はなかった! 江戸の美術と文化の革新者“蔦重”とは
メディア王に俺はなる
当代一の絵師、勝川春章(大河ドラマでは前野朋哉が演じる)と北尾重政(大河ドラマでは橋本淳が演じる)を起用した彩色摺絵本『青楼美人合姿鏡』も、吉原育ちの重三郎らしいヒット作。68人の遊女の姿が、四季の移ろいとともに鮮やかに描かれた。 当時の江戸吉原は、花街であり、知識人が集う文化サロン的な場所でもあった。蔦重自身も文人・狂歌師の大田南畝らが開催する狂歌会に参加する文化人であり、こうしたコミュニティで育まれた江戸時代の娯楽文化の粋を集めた狂歌と黄表紙を刊行することで、さらに版元として駆け上がって行った。黄表紙とは挿絵と文章が合わさった、現代のマンガや絵本のようなスタイルの書物。内容は洒落やギャグ、世相や政治を揶揄する風刺が盛り込まれており、軽妙な文芸作品として江戸の庶民に好まれた。 黄表紙の人気作家を抱えた重三郎は天明3(1783)年、33歳のときに吉原から江戸の出版界の中心地である日本橋通油町へと進出。名実ともに一流版元となっていく。 こうした重三郎の躍進には、当時、田沼意次(大河ドラマでは渡辺謙が演じる)が政治の実権を握っていたという政治的背景がある。田沼は強引とも言える政策によって幕府の財政基盤を確立。江戸は好景気に沸き、経済や社会が発展したことでその余裕が文化を活性化させた。こうしたお江戸文化の花盛りの時代が重三郎の前半生と重なり、その波にうまく乗っていたのだ。しかしその反動として、田沼時代の終わりがのちの重三郎の人生にも大きく影を落とすことになる。
歌麿と重三郎、最強タッグ結成
蔦屋重三郎の名前を語るうえで、葛飾北斎や喜多川歌麿(大河ドラマでは染谷将太が演じる)、東洲斎写楽といった浮世絵師との関係を外すことはできない。絵師の才能を見出し、売り出したことで、日本美術史に偉大な足跡を残した。 とくに歌麿との関係は特筆すべきものがある。当時、蔦重は狂歌に絵を加える狂歌絵本の発行に力を注いでおり、そこで起用したのがまだ新人の歌麿だった。タッグを組んだふたりは『画本虫撰(えほんむしえらみ)』(天明8年/1788)、『潮干のつと』(寛政元年/1789)をはじめとする狂歌絵本を次々と刊行、大ヒットとなる。これらのなかで歌麿は自然観察に基づく写実的描写を行っており、絵師としての実力を磨くステップアップにもなった。 ときは天明7年(1787)、田沼意次が失脚し、松平定信が老中となったことで寛政の改革が始まり、禁欲的なこの政権下でそれまで流行していた狂歌はいったん沈静化していた。こうした逆風のなか、重三郎と歌麿は、精緻な描写力と木版技術の粋を尽くした新しい狂歌絵本で勝負に打って出たのだった。