インプラント周囲炎に薬剤届けるナノ複合体開発 北大など
カーボンナノホーンの単体は直径5ナノメートル(ナノは10億分の1)、高さ約50ナノメートルの黒い円錐状。様々な薬剤を内包でき、近赤外光をよく吸収する。カーボンナノチューブと異なり、金属触媒を使わないため、生体への害は低いと考えられている。今回、カーボンナノホーンを組み合わせて、約100ナノメートルの大きさの複合体にした。
ただし、複合体にミノサイクリンを付けただけでは、近赤外光を当てても変化が無かった。そこで、生体に使えるヒアルロン酸を添加したところ、波長738ナノメートルのLED光源でミノサイクリンが放出されることが確認できた。他の波長の光では歯ぐきを透過しないため、近赤外光を使った。シャーレの実験では、光を照射しなくても殺菌効果があったが、照射すると菌はほぼいなくなった。48時間経っても効果が持続していることも確認できた。
平田助教は複合体を歯周ポケットに直接作用させる手法を想定したことについて「少量で効果が出せて、ポケットの深部に届かせることができ、素材の劣化があまりない材料を用いたかった。実用化にはまだまだハードルが高いが、一般診療でも簡単にインプラント周囲炎に対応できるよう、臨床応用を目指したい」と話している。なお、具体的にどのような方法でポケット深部に薬剤を送達するかはこれから検討するという。 今後は動物実験を行うと共に、カーボンナノホーンの生体親和性についても詳しく調べる。現在、カーボンナノホーンと医療用ヒアルロン酸は高価だが、「大量生産できればコストも削減できる。ミノサイクリンは安価なので、実用化できれば長期的な視点では患者の費用負担も軽くなるのではないか」としている。 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と花王クレセントアワードの助成を受けて行われた。成果は英国のナノ材料専門誌「ナノスケール」電子版に6月14日に掲載され、同月26日に北海道大学などが発表した。