「ホッケー界が一歩前進できた」さくらジャパンがつかんだ12年ぶりの勝利。守備の要・及川栞がパリに刻んだ足跡
パリ五輪で、1勝4敗という結果に終わったものの、12年ぶりに勝利を挙げたさくらジャパン(ホッケー女子日本代表)。チームの守備の要として奮闘した及川栞は、2度目のオリンピックでようやくつかんだ一勝に、ほっと胸を撫で下ろした。2013年以来、代表のキャリアは12年目に突入し、キャップ数は200に迫る。今大会ではジュード・メネゼス ヘッドコーチ(HC)の通訳も兼務し、チームの一体感を支えた。100年以上の歴史を持つ競技場を埋めた満員の観客、開催国フランスからつかんだ1勝(1-0)、世界王者オランダから奪った1点(1-5)――。強豪ひしめく最高峰の舞台で、日本が新たな歴史を刻んだ瞬間を振り返ってもらった。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=及川栞)
「感謝を伝える舞台に」。自分と向き合って挑んだ2度目の五輪
――及川選手は2021年の東京五輪に続き、2大会目のオリンピック出場となりました。今大会を、キャリアの中でどんな大会と位置付けていたのでしょうか。 及川:競技を続けていきたい気持ちがある中でも、4年後のロサンゼルス五輪までのイメージはまだ描けていないので、オリンピックという大舞台は最後になるかもしれないと思い、臨んだ大会でした。東京五輪は無観客で、両親やお世話になった方々にプレーを見せることができなかったので、有観客のオリンピックがようやく経験できる!と、本当に楽しみにしていました。いろんな人の前でパフォーマンスできてこそ、アスリートの価値は証明できると思いますし、そこで最高のパフォーマンスをすることで、少しでも恩返しや、感謝を伝えたいと臨んだ舞台でした。 ――実際に、有観客の中でオリンピックを戦った実感はいかがでしたか? 及川:無観客とは全然違いましたね。応援してくださる人たちが目に入ることや、生の声援が本当に力になりました。初戦のドイツ戦で、ウォーミングアップ前に会場に入った時はまだ人が少なかったんですが、選手入場をして、国歌を歌う時に満員の観客を見た時には、うれしい鳥肌が立ちました。ホッケーが盛んなフランスで開催されたことで、予選5試合がほぼすべて満員の会場でプレーができたので、選手としてはすごく幸せな空間でした。 ――他の国際大会とは違った注目度や雰囲気も感じましたか? 及川:それは感じましたね。ホッケーで一番レベルが高くて価値のある大会はオリンピックだと思うので、その場でプレーできたことに特別な思いがありました。パリのイヴ・デュ・マノワール・スタジアムというホッケー場は、100年前のパリ五輪で使用したスタジアムが改修された形だったので、歴史ある会場でオリンピックの舞台に立てているんだなと、いい意味で歴史も感じました。 ――今大会に向けて、高地での低酸素トレーニングなど、体づくりにも力を入れてきたそうですね。 及川:東京五輪が終わって、もっと競技力を向上させたいけれど、何を変えればいいか悩んでいた時に、他競技のアスリートとのつながりがきっかけで、トレーニング方法を変えることにしたんです。どうしたらケガのリスクを減らして効率よく負荷の高いトレーニングができるのか、いろいろなご縁を通じて話を聞いた中で、低酸素のランニングルームでできるトレーニングを見つけて。ランニングトレーナーをつけ、ジムのトレーナーも変えるなど模索しながら、3年間でトータル的な競技力は向上させることができました。