「ホッケー界が一歩前進できた」さくらジャパンがつかんだ12年ぶりの勝利。守備の要・及川栞がパリに刻んだ足跡
一勝の壁を越え「やっと一歩前進できた」
――さくらジャパンとして、5敗で終えた東京五輪(11位)から、一つ壁を超えた実感はありますか? 及川:私はリオデジャネイロ五輪ではメンバーに選ばれませんでしたが、その時に出場したメンバーは一勝もできずに悔しい思いをして帰ってきて、私自身も、日の丸を背負って初めて出場した東京五輪では一勝もできませんでした。ロンドン五輪以降、さくらジャパンとしてオリンピックの舞台では「一勝の壁」がすごく厚かったんです。「世界で12チームしか出られない大会に出たことがすごいこと」と言ってくださる方もいますが、世間的には「敗退」「出場しただけ」という認識になってしまう。だからこそ、「まず一勝の壁を乗り越えたいね」と話していたんです。今大会で開催国のフランスを破ってその壁を乗り越えられたことは、さくらジャパンとしても、日本のホッケー界としてもやっと一歩前進して、新たな歴史を刻めたと思います。今後、さくらジャパンが世界で勝っていくために必要なことはたくさんありますが、12年ぶりに勝利を挙げられたことで、少し安心した部分もあります。 ――東京五輪の時と今大会で、世界との差は少し縮まったようには感じますか? 及川:そうですね。東京五輪と比べると、チームとして得点力が欠けていた部分もありますが、5試合で生まれた2つの得点シーンは、本当に世界トップレベルのつなぎから、得点できました。特にオランダ戦は、目指してきたパスホッケーを表現できたゴールだったので、その回数をもっと増やしていきたかったです。 ――及川選手のプレーは指示を含めた統率力や1対1の強さ、パスの精度など、様々な強みがあると思いますが、今大会のパフォーマンスはいかがでしたか? 及川:私の最大の強みは、キーパーの前でプレーヤーを統率することです。苦しい状況でも、常にチームメイトに対しての指示やポジティブな声かけは5試合を通じてできたと思いますし、プレー以外のところでもチームを盛り上げようと心がけていました。もっと粘り強く、ボールをゴールの前から掃き出すことができたと思うので、改善点もありますが、1対1の守備や、いろんな種類のパスでチャンスを作り出せた点では、自分のスキルを発揮することができたと思います。 ――統率するためのコーチングや声かけのスキルは、どんなふうに磨いてこられたんですか? 及川:ピッチ上のコミュニケーションを円滑にするためには、ピッチ外のコミュニケーションがすごく大切だと思います。切羽詰まった状況でも、普段からすごく話している人の声は、声がスッと入ってくるんですよね。だからこそいろんな年齢層の選手と、ホッケー以外の話題も含めてコミュニケーションを取り、どんな時でも私の声がスッと入ってくるようにしていました。それは、ピッチ上で自分がラクをすることにもつながります。 ――毎日コツコツと、そういう時間を積み重ねていったんですか。 及川:そうですね。チームは1日、2日ではできないので、東京五輪が終わってからチームメートの入れ替わりがあった中で、そういうコミュニケーションの仕方は心がけてきました。