「ホッケー界が一歩前進できた」さくらジャパンがつかんだ12年ぶりの勝利。守備の要・及川栞がパリに刻んだ足跡
通訳を兼任して臨んだパリ五輪。チームと監督をつなぐ存在に
――及川選手は海外でのプレー経験が豊富で、さくらジャパンではジュードHCの通訳も兼任されていたそうですね。どのような経緯で、通訳を任されたのですか? 及川:私自身は、一選手の立場で通訳の責任まで負いたくはなかったんですが、「監督と選手のやりたいことがイコールにならない限りチームは一つにならない」と思い、監督のやりたい戦術を理解した上でチームと監督をつなぐ存在になろうと考えていました。 ――必然の成り行きだったんですね。兼任だと、自分以外のことに意識を向ける時間が多くなって大変そうですが……。 及川:ミーティングの時はどれだけ疲れていても、眠気がこなかったです(笑)。周りを見て、眠くて目が閉じそうだな~っていうメンバーがいても、私は冴え渡っていました。それと、ハーフタイムに水分補給をするのですが、私はその前に監督が話すチーム戦術を伝えなければいけなくて、後々考えたら、私も喉乾いてたよな、って思ったり(笑)。 ――プレーヤーとして経験があったからこそこなせた部分もありますよね。大会を終えて、心身ともに少し休めたのですか? 及川:他の競技と比べて休みが短かったので、あまり休めた感じはないですね。所属している企業はお盆休みだったのですが、東京ヴェルディホッケーチームは国内の試合が2週間後には始まる状況だったので、実質1週間も休めませんでした。試合がない期間や土日は子どもたちにホッケーを広める普及活動をしているので、最初のほうは体の重さも感じていました。ただ、その中で合間を見つけて休息を取りながら、やっと自分の中でバランスが戻ってきたと思います。
「ユニフォームがかわいい」も切り口の一つ
――ハードな日々が続いているんですね。スピーディで攻守の切り替えが速く、頭脳も肉体的にもハードワークが要求されるスポーツだと思いますが、及川選手にとってホッケーの魅力はどんなことですか? 及川:ホッケーのボールは直径7.5cmで、それほど小さいボールを扱う球技は他にないと思います。そのボールが走るスピード感や、シュートを決めた時の気持ちよさは魅力だと思います。仲間とパスをつないでシュートを決めた時のよろこびは何倍にもなりますし、感情を共有できる仲間たちがいることもそうです。また、女子は「ユニフォームがかわいい」と言われることも。そういうことも含めて、いろんな切り口からホッケーの魅力を知ってもらえたらうれしいです。 ――普及活動を通じて感じることや、国内の競技環境について感じていることがあれば教えてください。 及川:ホッケーは日本ではマイナー競技ですし、少子化が進んでいる中で、競技人口を増やすために、まずは子どもたちに知ってもらうことが一番大事だと思います。そういう活動のお声をかけられた時は積極的に参加するようにしていて、地方でもよく活動しています。子どもたちはすごく素直で、スキルを教えて「これができたじゃん」と褒めたり、達成感を味わったりした時には「次はこれ教えて!」と、どんどん質問してくるんです。すぐに「お腹空いたー!」と言ったり、集中力はあまり続かないんですけどね(笑)。ただ、そうやってホッケーを好きになってくれると、「この子たちが楽しさを忘れずに、いろんな達成感を感じてくれたら、ホッケーを続ける人が多くなるんだろうな」と実感して、やりがいを感じることができています。 <了>