フランス新首相の就任はEU瓦解への前奏曲だ
最も悲惨な国がフランスであろう。フランスは、この2カ月首相不在が続いていた。その理由は、大統領を支持する政権党が、国民議会選挙で敗北したからである。そもそもEU議会でも敗戦しており、都合2回敗北したといっていいかもしれない。 ■フランスの首相がようやく決まったが… 支持を失ったマクロンは、対立する非政権党から首相を決めざるをえない状況になっていたのである。だから、首相選びは難航した。 そして9月になり、マクロンはなんと共和党のベテラン議員でもあるミシェル・バルニエを首相にした。これは青天の霹靂であった。共和党といえばかつての強力な党であるが、今では力をもっていない。だからこそ、第三者ということだったのだが、マクロン支持の政党であることは間違いない。
選挙で多数政党が決まらなければ、首相決定がままならず、そこで首相不在の政治的空白が生まれる。だから、一般的には多数政党から選ばざるをえないのだが、新人民戦線、国民連合、アンサンブル(政党連合)が三つどもえの状況では、どの政党から選んでも混乱は避けられない。 ミシェル・バルニエは、ある意味興味深い人物ではある。ビジネスのグランゼコールを卒業後、経済界ではなく政治の世界に入り、地方活性化や環境問題に従事してきた人物である。
やがてEU議会の議員となり、EUの政策の中心に立つ。とりわけ、彼の手腕が発揮されたのは、イギリスがEUから脱退したあのBrexitの時であった。 イギリスの脱退でEU内に激震が走り、EUから出ようという国に拍車をかける可能性があった。そのとき奔走したのがバルニエである。 バルニエは、調停役(ネゴシエーター)として知られる。イギリスのBrexitを各国対応ではなく、EU全体の対応にしたのが彼で、イギリスだけの脱退ですんだのは彼の手腕によるところ大であったと言われる所以はここにある。
マクロンを含めEU内の政権は、EUという国家を超える力で、国内の政治を乗り切ろうとしている。たとえ国内の選挙で敗北しても、EUという錦の御旗の前で、各国の国民に譲歩させるのである。その意味で、フランスの首相にEUの長い経験のある人物を置くことは、マクロンにとって都合がいい。 しかし、ここに大きな問題が含まれている。各国の主権がEUの主権によって制限されてしまうという問題である。 ■EUの主権に縛られる加盟国の主権