フランス新首相の就任はEU瓦解への前奏曲だ
しかし、利益のおこぼれのトリクル・ダウンはつねにあるとは限らない。むしろそうでない場合のほうが多いかもしれない。そうなると、それまで従属的だった国民も怒りをあらわにすることになる。 欧州議会選挙、イギリス下院選挙、フランス国民議会選挙、ドイツの州議会選挙などで、起こっている政権党への批判票は、こうした怒りの発露ともいえる。 ■過度な自由主義、国際化にうんざりする欧州 政権党は「極右の台頭」などと騒ぐが、欧州の国民が行きすぎた自由主義やグローバリゼーション、戦争にうんざりしていることは、紛れもない事実である。
民主主義と人権を守る戦いというイデオロギーなどよりも、胃の腑の欲望を満たすほうが、国民にとって重要であることは、当然である。政権党は民主主義と全体主義というイデオロギー闘争を前面に出しているが、国民にはそれ以上に日常生活のほうが大事になっているのである。 こうした結果、イギリス下院議会選挙では労働党が政権をとり、フランス国民議会選挙では、非政権党が多数を占め、ドイツ州議会選挙では軒並みAfD(ドイツのための選択肢党)が票を伸ばしている。
これらの政党は「戦争反対、移民反対」という公約を掲げている。移民も、欧州以外での戦争からもたらされた点では、戦争反対こそ問題の中心かもしれない。 その結果、政権が変わり、戦争終結、移民制限も間近に迫るはずであったのだが、いっこうにそうなる気配はない。それは、政権をたとえこれらの新しい党が握ったとしても、その背後にあるディープ・ステートが国民の意思を反映させないからだ。 イギリスの新首相キア・スターマーは、労働党の党首だが、かつての党首トニー・ブレアの再来のような人物で、保守党の政策の多くを共有している。戦争に関しては、ボリス・ジョンソンと変わらないか、それ以上の推進派かもしれない。これでは労働党の政権奪取を喜ぶことはできない。