クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』 アカデミー賞最多13部門ノミネートの話題作を解説
アカデミー賞に3人の俳優がミネート! 豪華演技派スターの共演
アメリカ原子力委員会の委員長で、頑固で野心に満ちたルイス・ストローズ。オッペンハイマーの天才的な頭脳を高く評価しながら、戦後は水爆実験をめぐりオッペンハイマーと対立を深めていく。演じるロバート・ダウニー・Jr.は、『アイアンマン』シリーズでおなじみ。アカデミー賞では『チャーリー』『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』に続き、3度目のノミネートにして大本命!
全編にわたり熱演を見せる、実力派の俳優たちによる熱演も本作の大きな見どころだ。アカデミー賞では主演男優賞にキリアン・マーフィー、助演男優賞にロバート・ダウニー・Jr.、助演女優賞にエミリー・ブラントがノミネートされている。 ノーラン映画に『ダークナイト』3部作のほか5作も出演しているものの、一度も主役を演じたことのないマーフィーが賞レースを席巻する高評価を得ている。ノーランは「オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーが映画の中心だった」と語っているが、アイルランド出身のマーフィーは、オッペンハイマーの「極めて複雑な人間性」を突き詰め、多くの資料に当たり、内面を掘り下げて演じたという。 スクリーンで観るマーフィーの演技は、その言葉のとおり、一筋縄ではいかない人物を見事に体現。その表情を見ているだけで、気持ちが彼の世界に引きずり込まれていくようで恐ろしくもあるほど、緊迫感と葛藤を伝えて息をのむ。 その妻キャサリンを演じるのは、イギリス出身で『クワイエット・プレイス』シリーズのエミリー・ブラント。キャサリンは生物学者、植物学者で、オッペンハイマーと結婚する前に3度結婚をしていた。オッペンハイマーとの間に二人の子どもが生まれたが、研究者としてのキャリアをわきに置いて子育てや家事に従事する生活に不満があり、孤独に苛まれ、アルコール中毒と闘うなど情緒不安定な側面もあった。 キャサリンもまた複雑な性格で、映画を観ていると現代的な考えを持ち、扱いが難しいが聡明な彼女の物語を、1本の映画として観てみたいという気にもなる。壮絶な夫婦のぶつかり合いもある一方で、オッペンハイマーの最大の理解者であり、信じて支える姿を、ブラントがマーフィーの熱演に勝るとも劣らない臨場感を伝えて強い印象を残す。 オスカーでは鉄板だろうと言われているのが、1947年に設立されたアメリカ原子力委員会の委員長ルイス・ストローズを演じるロバート・ダウニー・Jr.だ。 保守的で強固な反共主義者であったストローズは、劇中ではオッペンハイマーと対立する、いわば本作ではヒールの役どころ。圧倒的な天才であるオッペンハイマーに対して、高卒であったなど正式な教育を受けていないことへのコンプレックスも強かったストローズの複雑な感情を、ダウニー・Jr.は巧みに演じている。 『アイアンマン』シリーズやアメコミ大作で人気があるが、そもそもが演技派俳優として知られており、1992年公開の『チャーリー』で喜劇王チャップリンを演じてアカデミー賞主演男優賞候補になった。しかし、1990年代後半から2000年代初頭まで薬物依存の克服に苦しんだことで、キャリアは低迷した。そうした過去の苦しい時期を克服しての今の活躍があるからこそ、ダウニー・Jr.の悲願とも言えるオスカー受賞にはより一層のメディアの注目も集まっている。 徹底してリアリズムにこだわることで知られるノーランは、脚本を書く段階から「合成キャラクターは書かない」と決めていたという。一般論として、本作のように多くの人間が関わった実話を描く際には、複数の人物の要素、役割を一人の架空のキャラクターが担うことが多い。そのため、本作には出演時間は多くはないが重要な人物を演じる有名俳優たちが次々と登場するのも見どころだ。 オッペンハイマーと熱烈なロマンスを繰り広げる堪能的で自由な精神にあふれたジーン・タトロック役のフローレンス・ピュー、マンハッタン計画を指揮するよう命じられた陸軍将校レズリー・グローヴス役のマット・デイモン、物理学者アーネスト・ローレンス役のジョシュ・ハートネット、ノーベル物理学賞受賞者ニールス・ボーア役のケネス・ブラナー、「水爆の父」と呼ばれるエドワード・テラー役のベニー・サフディ。ほかにもラミ・マレックやケイシー・アフレックなど、多くのスターがさらりと出てくることへの驚きや楽しみは多い。