iPadのCM大失敗におじさんはうなずく
本欄は、「オタクネタ時々時事」というコンセプトで発注を受けているのだが、ゴールデンウィーク明けから、世間の動き、どころか宇宙も含めた世界全体の動きが速くて、たまらん状態が続いている。 この原稿を書いている5月14日現在、太陽に巨大黒点が出現していて、活動が大変活発になっている。太陽活動は約11年周期で変動し、次の極大期は2025年ごろと予測されている。今は極大期に向かって盛り上がっている時期だ。 5月8日から10日にかけて、太陽表面で巨大なフレア(荷電粒子の大量放出)が立て続けに発生した。太陽から流れ出す陽子や電子や、あるいはヘリウム原子核(α粒子)などの荷電粒子のことを太陽風という。フレアが発生すると風は嵐となり、太陽嵐と呼ばれるようになる。 ●太陽嵐が吹き荒れると 激しい荷電粒子の流れは地球の磁場と相互作用を起こす。磁場に沿って両磁極に集まり、高層大気と衝突すると発光現象を起こす。オーロラである。また、強い荷電粒子の流れは無線通信に影響を及ぼす。それどころか送電網に誘導電流を引き起こして、送電施設を破壊することもある。高空では環境放射線が増加するので、航空機搭乗時の被曝も懸念される事態となる。宇宙空間の衛星は、誤動作したり、最悪電源系が破壊されて機能喪失したりすることもあり得る。 前回マウンダー極小期の話で書いた通り、太陽活動は地球環境に密接な関わりがある。荒ぶる太陽がこれからの夏の気温にどう影響するかも気になる。 これまた、「なんの伏線かオチ付けか」と突っ込まれそうな話ではあるが、前々回話題にしたSF作家ロバート・A・ハインラインには「大当たりの年(The Year of Jackpot 1952年)」という短編がある。 主人公の統計学者ブリーンは、世の中に存在する様々な周期を研究している。その年、ブリーンの周囲で不思議なことが次々に起きるようになる。調べていくうちに彼は、彼が研究している様々な物事の周期が狙い合わせたかのように6カ月以内に最大か最小かになることに気が付く。変なことは大規模、かつますます頻繁になり、ついに核戦争まで起こってしまう。古い小説なので明かしてしまうと、太陽が欠けたかのように見える超巨大な黒点が出現する――というところで小説は終わる。 まったくもって、人類社会は自然環境の中に浮かぶ笹舟のようなもので、ちょっとした自然の変動でぐらぐら揺さぶられるのである。5月14日には、大陽の自転運動で、縁から裏に回り込もうとする黒点で大規模な太陽フレアが発生した。ただし太陽嵐は地球方向に吹き出さなかったので大きな影響はない模様。半月後に同じ黒点が再度縁から現れる時、どんな状況になっているかに天文学者は注目している。 と、書いておいて、以下は人類社会の中の、わりとどうでもいい話。 アップルが新型iPadの発表に合わせて流したCMが物議を醸し、アップルが謝罪するまでになってしまった。 2024年5月7日、アップルは、新型のタブレット「iPad Pro」「iPad Air」を発表した。現在アップルはARMアーキテクチャーの独自CPU「アップルシリコン」シリーズを使用している。新型iPad Proでは、現在パソコンのMac(Macintosh)で使われているアップルシリコンの「M3」チップではなく、次世代の「M4」チップを採用した。これまで最新のMチップは、まずMacで使用され、それからiPadに使われるという流れだったので、いきなりiPad ProにM4を採用してくるというのはかなりの驚きだった。 が、それ以上にショッキングだったのが、同時公開されたCMだった。 トランペット、ピアノ、ギターなどの楽器、カメラ、レコードプレイヤーなどのオーディオ・ビジュアル機器、さらには絵の道具にゲーム機――これらがプレス機で押し潰されて壊されていく。最後にプレス機が開くと、そこには新型のiPadがある。 過去の様々な道具の機能がiPadに集約されている、という意味だろう。 が、これがSNSを中心に強い批判を巻き起こした。当たり前だ。どのような道具でも使っている人は愛着を持っている。それが破壊される様子を見て気持ち良く感じるはずがない。それを臆面もなく潰してみせるというのは、道具に対する使用者の気持ちを無視しているし、ひいては侮辱しているとすら思える。