中谷潤人が充実のLAキャンプを終了 3階級王者になった今「さらに上を目指すため」に怠らない自己投資
「15の時以来のスパーリングでした。久しぶりでしたね。あの頃は、ガンガン打ち合いました。ボディを狙ったことを覚えています。今はやりやすい、崩しやすい選手です。彼の動きを観察しながら、それほど力を入れずにスピード重視の連打を心掛けました」 マンダパットと向き合ったWBCバンタム級チャンピオンは、フットワークで相手を捌き、カウンターの左ストレートをぶち込む。顎への右アッパーもヒットし、ショートの連打で動きを止めた。そうかと思うと、ノーガードにしてリング中央で静止し、マンダパットを誘った。 「向こうが出てくるところに、カウンターを合わせようと考えたんです。実は疲れていたので、ちょっと休もうと(笑)。でも、あまりこなかったですね。マンダパットにダメージを与えないように、軽めに手を出しました」 【より高みを目指すための自己投資】 中谷はワンツー、右ボディのダブルを放ってパートナーを圧倒した。最終の10ラウンド目は、力を込めずにパンチを出し続け、上下にフックを打ち分けた。 「『ここでしっかり手を出せば、今日はサンドバッグ打ちなしでいいよ』とルディに言われたので、最後のラウンドは休まずに攻めました。力は込めませんでしたが」 トレーナーのルディ・エルナンデスと中谷は、固い絆で結ばれている。15歳で、単身アメリカに乗り込んだ中谷を、ルディは自宅にホームステイさせた。その後、中谷は日本でプロデビューし、新人王、ユースタイトル、日本王座、WBOフライ級チャンピオン、同スーパーフライ級タイトル、WBCバンタム級王座奪取と、一歩一歩階段を上がってきた。今回も含め、試合の度にLAでキャンプを張るが、ルディはスーパーフライ級転向後の第1戦まで、中谷に部屋を用意した。
「ジュントがハッピーなら、俺もハッピーだ」 ことあるごとに、ルディはそう言った。 2階級を制した2023年5月20日のWBOスーパーフライ級王座決定戦、アンドリュー・モロニーとの試合に向けたキャンプから、中谷は4つ星ホテル並のバケーション・レンタル施設に寝泊まりしてジムに通うようになった。最上階にはランニングマシーンや筋トレ器具が並び、プールやジャクジーもある。 部屋に入れば、冷蔵庫やキッチンはもちろん、洗濯機、乾燥機も備えられている。調理師のキャリアを持つ実弟の龍人がマネージャーとしてチャンピオンを支える。栄養のバランスを考え、減量も考慮した食事を用意する。さらに、鍼灸師、柔道整復師の資格を持つトレーナーが同行し、毎日欠かさずマッサージを行う。 最終ラウンドにモロニーをキャンバスに沈めたWBOスーパーフライ級王座決定戦は、リング誌による2023年度の「KO Of The Year」を受賞したが、世界チャンプのなかでも真の実力者として讃えられる者ならでは環境だ。「さらに上を目指すため」に、中谷は準備を怠らない。 「何のために今、LAで練習するのかを考えた時、必要だと感じるものを揃えました。言ってみれば、自己投資ですね」 【危険地帯でつかみ取ってきたチャンス】 ルディの自宅は、サウスセントラルにある。1992年に同名の映画が放映されたが、無数のギャングが縄張り争いをする危険地帯だ。住民の66.6%がヒスパニックで、メキシコ移民であるルディ家もそこにカウントされる。 2023年にFBIが発表したデータによれば、犯罪率は全米平均の2.14倍。殺人、過失致死、強制強姦、強盗......そして、他人に身体的傷害を与えたり、人命を軽視し、故意に致命的な傷を負わせようとする加重暴行などの暴力犯罪の発生件数は、全米平均の4.96倍というエリアである。 かつて、中谷はサウスセントラルで銃声を聞き、警官に連行されていく隣人の姿を目の当たりにした。ロードワーク中には、誰かが亡くなったことを意味する花が手向けられている様を見た。そういった地で研鑽を積んだからこそ、今がある。