「おんぶ」をせがむ小・中学生たち 生育環境で得られなかった「愛」を求めて
シングル家庭だけの問題ではない、子どもと向き合えない父親たち
いまでこそ父親の育児参加が推奨され盛んにもてはやされる時代となったが、仕事などを理由に、育児を母親任せにしている家庭は、依然として少なくないだろう。その意味で、「父親不在の育児」は母子家庭に限った話ではない。 個人的体験で言えば、育児はおろか、台所に立つことすら「男のすることではない」と言ってはばからない父の下で育った私は、「子どもと向き合う父親」が全くイメージできないまま、大人になったと言っても過言ではない。働く大人としての父親像はあっても、家庭の中でどのように振る舞ったら良いのか分からなかった。このような悩みを抱える父親は多いのではないだろうか。 私の場合は、幸いにも塾経営を通じてたくさんの学生講師が子どもたちに無償の愛を注ぐ姿を目にする機会を得た。さらに、結婚し子どもが生まれてからは義父が子どもを可愛がる姿を見せてくれた。生育環境などにより現在進行形で苦しむ塾生を支援している立場のつもりだったが、これらの体験を通して改めて学ぶことは多かった。時間はかかったが、私自身も「愛情を注ぎ・注がれる」という体験を取り戻す機会を得たと見ることもできるかもしれない。
良いスキンシップの「コツ」は
スキンシップは、さまざまな誤解や犯罪を生む恐れがある。そのため、「とにかく触れ合いを」と推奨している訳ではない。では、「良い」スキンシップのコツはあるのだろうか。また、スキンシップが上手い人の共通点はあるのだろうか。
塾生たちが求めるスキンシップに対して自然な対応ができる学生講師に話を聞いてみると、自分の親もしくはその他の身内との関係性が良好な場合が多い。また遊んでいる姿を見ても「遊んであげている」と言う上から目線がないように見受けられる。おそらく、授業の中でも雑談を通じて塾生との距離を縮めているのであろう。 何より、子どもたちを「受け入れる」姿勢を持っている。自分からスキンシップをしにいくのではなく、子どもからの接触を穏やかに受け入れることに徹しているのだ。もちろん、度を越した悪ふざけをすれば「それはダメだよ」と指摘するが、基本的にはおんぶをせがまれればしてあげる。話を聞いてほしそうであれば聞いてあげる。拒絶するような態度はほとんどない。子どもたちは自分に向けられた態度や表情以外にも、学生講師がどんな態度で他人と接しているのかもよく見て、甘えても大丈夫な大人がどうかを判断している。子どもたちは、大人の表情を読み取る達人なのだ。 当塾には毎年、100人以上の大学生・高校生がボランティア講師として集まる。参加の動機は、「教育格差を改善したいから」、「自分もひとり親家庭で育ったから」、「友達に誘われたから」、「子どもが好きだから」など、十人十色。 きっかけはどうであれ、その多くは塾生の学力向上だけに目が向いている訳ではなく、「根気強く寄り添い見守ること」にも理解を示してくれている。そのため、ボランティアだからといい加減な対応をすることはほとんどない。 我が家で、隙があれば親の膝に座ってキャッキャと騒ぐ子の姿を見ていると、子どもと自然なスキンシップがとれる学生講師たちは、自然とこうやって親からの愛情を受けながら育ったのだろう、と改めて感じる。