MERS、エボラ、デング熱も 「人獣共通感染症」ってどんな病気?どう防ぐ?
図では、狂犬病の発生地域と清浄国を色分けして示しています。医療も衛生状態も整っている欧米諸国でも、清浄国ではない国が多いことがわかります。一方で、清浄国には、オーストラリアやイギリスなど、日本と同じように周囲を海で囲まれた国が多いことが見てとれます。 清浄国であり続けるには、再度、病原体が持ち込まれることを防ぐことが重要です。外国からペットも含めた動物をもち込む際は、国ごとに指定された検疫(審査)を受けることになります。その動物が感染症にかかっていないか、また潜伏感染(感染はしているが、症状が出る前の段階)の状態にないかを見極めます。さらに、国ごとに定められた検査や証明書の発行が必要になります。労力はかかりますが、狂犬病の侵入を防ぐ最も有効な手段となっています。 国内では「狂犬病予防法」という法律により、犬の登録、予防注射、必要な場合の保護と捕獲も義務づけられています。飼い主として、責任をもって防疫に努める必要もあるわけです。日本が清浄国であり続けるために、このような措置がとられているのです。 今回は獣医師の立場から、昨今の感染症の脅威を人獣共通感染症という視点で見てみました。獣医師というと「ペットのお医者さん」のイメージがありますが、獣医師の任務は「動物に関する保健衛生の向上及び畜産業の発達をはかり、あわせて公衆衛生の向上に寄与すること」(獣医師法第 1条より)。つまり、人の衛生的で豊かな暮らしに寄与することなのです。ですから、家畜や魚、ミツバチなどの衛生管理も担当します。そして人獣共通感染症のコントロールも重要な使命なのです。 MERSなどの新しい感染症のニュースを読み解く際、ここに挙げた情報も念頭に、世界の動向を見てもらえたらと思います。そして私たちの生活を豊かにしてくれるペットや、地球上のさまざまな動物たちと、人間はどのように関わっていけばよいのか、考えるきっかけとなれば幸いです。 ---------------- 日本科学未来館 科学コミュニケーター 西岡真由美(にしおか・まゆみ) 兵庫県生まれ。人と、動物や自然の調和に関心を持ち、大学では獣医学を専攻(麻布大学)。動物病院勤務を経て、科学コミュニケーションの世界へ転向し、現職へ。