『サラダ記念日』の俵万智が教える、思いが伝わる短歌のコツ。「出来事」と「思い」が基本構造《俵万智さんの短歌入門レッスン・実践編》
デビュー歌集『サラダ記念日』以来、第一線で活躍を続けてきた歌人の俵万智さん。短歌作りの基本的なルールと、より豊かな表現にするアイデアを伝授します(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内禎 イラスト=竹田明日香) * * * * * * * ◆【実践編】もっと伝わる歌にするコツ 俵さんの代表的な歌をお手本に、魅力的な一首を作る技を解説します 《「出来事」+「思い」の構造で》 レシピ通りの恋愛なんてつまらない ぐつぐつ煮えるエビのアヒージョ 「出来事」+「思い」は短歌の基本構造です。順序は「思い」+「出来事」でもOK。もちろん出来事だけで写実する方法もあるし、思いだけの歌もありますが、それで伝えるにはやや技術を要します。 また、出来事の描写があると、思いだけをぶつけるより読者も共感できるはず。 上の句「レシピ通りの恋愛……」は恋愛に対する思い。下の句の「ぐつぐつ煮える……」の情景描写が、スパイシーで煮えたぎるような心を伝えています。 《主観的な形容詞を避ける》 最後とは知らぬ最後が過ぎてゆく その連続と思う子育て 子どもの成長は早いのでいつが最後だったかわからないことも多く、その悔しさや寂しさを詠んだものです。「嬉しい」「寂しい」「悔しい」など、「しい」がつく形容詞は要注意。「嬉しい」と言われても、何がどう嬉しいか読者には伝わりません。 主観的な形容詞を使わずに、いかにその感情を伝えるかが短歌の面白さ。そこに楽しさを見出したいものです。
《比喩を上手に使おう》 トランプの絵札のように集まって 我ら画面に密を楽しむ コロナ禍で自粛中に、オンライン歌会をした時のことを詠みました。画面に映るみんなの顔が、トランプを並べたみたいだと思って。比喩表現では、共通点があるAとBをいかにうまくげるかがポイント。 かけ離れていると読者はピンとこないし、似すぎていると面白くありません。ほどほどの距離がありながら、「おおっ!」という驚きを生み出せるかどうかが勝負所です。 比喩の質が歌の質を左右すると言っても過言ではありません。 《生き生きとした会話を入れる》 「嫁さんになれよ」だなんて カンチューハイ二本で言ってしまっていいの 現代短歌の多くは口語体で詠まれています。今を生きる自分の心を表現するうえで、ごく自然なことです。さらに、実際に交わされた会話を取り入れると、より生き生きとした表現になるでしょう。 たとえば、可愛いお孫さんの言葉を、そのままカギカッコに入れて使ってみては。
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