ホームラン歴代3位の奇才・門田博光が命懸けでフルスイングを教えた「唯一の愛弟子」
プロ入りが決まった際、倉本は門田に直接会って報告しようと思い連絡した。門田の体調はさらに悪化し外出もままならない状態だったが京都で落ち合い、ふたりで食事することができた。 「あらためてドラフト指名されたことをお伝えしてお礼すると『まだまだ』と言われました。でも喜んでくださっている雰囲気は伝わってきました」 プロ1年目、倉本は大洋時代の野口善男(1971年)以来、球団としては44年ぶりに新人ショートの開幕スタメンの座を獲得した。しかし守備では一定の評価は得たものの、規定打席には未到達で打率.208、本塁打2。打撃面では満足できる成績は残せなかった。 2年目の2016年シーズン、倉本はプロで生き残るため大きな決断をした。長くて重いバットをフルスイングして本塁打を狙う一本足打法から、前年終盤から模索し始めた、短いバットで確実に安打して出塁を狙う、摺足(すりあし)打法に本格的に方向転換すると決めたのだ。しかしそれは恩師門田の教えを捨てることを意味していた。 「模索し始めたのは前年、2015年シーズン最後、残り15試合くらいのときですね。NPBには僕よりもホームランの打てるバッター、長距離を狙えるバッターはいくらでもいることを思い知らされました。その中で、僕が内野手として出場機会を得て生き残るためには、バッターとしてもっと出塁できなければ厳しい、と痛感しました。 同じ左バッターで、その年、首位打者と最多安打を記録することになるヤクルトの川端(慎吾)さんのように、たくさんヒットの打てる打者になりたいと思っていたのですが、運良く(川端から)アドバイスいただける機会を得ました。さらにありがたいことに、川端さん本人から直接、バットをいただくことができました。 重さは変わりませんが、短くて重心がグリップの近く、手元にあるので飛距離は出せない。でもこのバットがドンピシャにはまって打てるようになりました。なるべくボールから目線をぶらさず、確実にコンタクトできるように一本足から摺足の二段ステップに変えて、打球方向もライト方向狙いから、レフト方向狙いに変えることを試し始めました。次のシーズンはこのスタイルで勝負すれば生き残れるかもしれない、という手応えをつかみました」 倉本は考え抜いた末、翌シーズンからは長くて重いバットを使い、一本足打法でフルスイングする打ち方から、短いバットで確実に安打を狙う打ち方にすると決めた。門田に報告すると、短くこう言われて電話を切られた。 「好きにせい」 (つづく) ●倉本寿彦(くらもと・としひこ) 1991年生まれ、神奈川県出身。横浜高では後輩の筒香嘉智らと共に夏の甲子園でベスト4。創価大から社会人の日本新薬を経て2014年ドラフト3位でDeNA入団。1年目は65試合にスタメン出場。2年目にショートのレギュラーに定着し、3年目の2017年シーズンは全試合出場した。22年に戦力外通告を受けて日本新薬に戻った後、くふうハヤテに移籍しNPB12球団復帰を目指している 取材・文・撮影/会津泰成