尿1滴、3分で覚醒剤など薬物40種判別 犯罪捜査を迅速に 近畿大や愛知県警科捜研
尿1滴で覚醒剤など40種類の薬物を3分以内で特定できる手法を開発したと、近畿大学や愛知県警科学捜査研究所(科捜研)らのグループが発表した。これまで薬物犯罪捜査で科捜研に送られた被害者や被疑者の尿を、分析化学に精通した人が鑑定する際に時間がかかり、簡易検査では偽陽性の誤った結果も出るといった問題があった。新手法を使えば誰でも迅速に解析でき、検挙率向上や被害の全容解明、刑事裁判の公判維持に貢献できるという。
誤判定と時間がかかる 薬物捜査の課題
研究を主導した近畿大学生物理工学部の財津桂教授(分析科学・バイオインフォマティクス学)は元々、大阪府警科捜研で約10年間研鑽を積んできた。主に鑑定したのは覚醒剤や大麻などの違法薬物使用者と、昏睡強盗や急性薬物中毒の被害者が摂取した薬物の中身の特定だ。
通常、警察官は24時間を3交代で勤務するが、科捜研は平日日中のみの稼働。宿直の職員がいるとはいえ、一度に大量に検体が送られてくると、逮捕から検察官送致のリミットである「48時間」以内に分析できず、結果が出せない。このような場合、逮捕しても公判を維持できるほどの強力な証拠がないとされ、被疑者は釈放される。
現在全国の警察で採用されている尿の薬物簡易検査は、化学構造が似た薬物群の推定にとどまるうえ、偽陽性の誤判定が出ることがある。偽陽性で逮捕されることは人権上大きな問題となる。他方で、正確な物質特定のために用いられる質量分析は、試料を調製したり、成分を分離したりするために熟練の技が必要で、時間もかかる。
職人技として実験手腕があることが評価された時代もあったが、労働人口減少の中で人材を確保するのが難しいうえ、現場は薬物関連犯罪の急増で職人を育成する余裕がない。警察だけでなく、急性薬物中毒で患者が搬送された病院の医師からの依頼もある。これらの問題を解決するためには、誰でも簡単に、迅速に検査できる体制確立が必須だった。
少量の尿 正確な結果を得られる
大阪府警科捜研を退職した財津教授は名古屋大学で実験を始め、サンプルプレートに尿と試薬を混ぜて1滴垂らしたものから薬物を分析する装置をつくった。尿の量は10マイクロリットル(1マイクロは100万分の1)で済む。約40種類の薬物特有の情報を機械に覚えさせ、一致する物質を判別し、波形の大きさで検出濃度がわかる機能を備えた。数種類の薬物が含まれている尿や、遺体の尿でも鑑定は可能だ。