尿1滴、3分で覚醒剤など薬物40種判別 犯罪捜査を迅速に 近畿大や愛知県警科捜研
薬物分析の手順はまず、尿に内部標準溶液のジアゼパムD5溶液とエタノールの試薬を添加し、混合した溶液を装置内にある鍼灸用の鍼(はり)につける。続いて鍼に電圧をかけてイオン化し、真空状態でアルゴンガスと衝突させる。すると薬物構造に特有の断片が生じる。覚醒剤やコカイン、睡眠薬、抗ヒスタミン薬など40種類の薬物特有の断片の情報と照らし合わせて何の物質か特定する仕組みだ。
装置の名前を「RaDPi-U(ラドパイ ユー)」として産官学連携で製品化した。検出限界は1ミリリットルあたり0.01~7.1ナノグラム(1ナノは10億分の1)と非常に低く、正確性も確認した。特定する薬物の種類を増やすことも可能だが、現場の実情をよく知っている愛知県警科捜研や名古屋市衛生研究所の研究員たちと議論し、警察官が限られた時間で結果を検証できるよう、現在、薬物犯罪で主に使われている物質にターゲットを絞る工夫を凝らした。
このラドパイ ユーは本体の幅が1メートル強しかなく、机に置けるサイズで、200ボルトの電源があれば装置を作動できる。電気自動車のパトカーも採用され始めており、将来的には電気自動車から電源を取って作動し、その場で任意の尿鑑定の結果を出すことも想定されるという。記憶させる薬物の種類は入れ替えることができるため、時代に合わせた薬物捜査に対応できる。
薬物犯罪 低年齢にも及ぶ
法務省の令和5年(2023年)版犯罪白書によると、大麻取締法違反の検挙者は平成26年(2014年)から増加傾向で、覚醒剤取締法違反では減少傾向にあるものの、同法違反のうち「使用罪」の割合が過半数を超え、中学生の検挙例もあった。未成年らが集まり、睡眠薬などを大量に服薬するオーバードーズの問題も深刻化している。白書の数字に表れないものの、薬物に関わる犯罪は多いことが推察される。 財津教授は今回の分析手法の開発について「こういうニュースは薬物を使っている人がよく見ている。科学の力で追い詰めることができると知らせることが、薬物犯罪の抑止につながる」と意義を語る。科捜研時代、警察官が薬物犯罪の検挙、公判に持ち込むための証拠集めに苦労していることを間近で見てきたという。「捜査はその先に裁判が待ち構える。科学的に認められた技術と示すためには、ピアレビュー(同分野の専門家による評価)を受けた論文として発表することが絶対に必要。裁判で『ラドパイ ユーの結果は信用できない』という被告人弁護士の主張を退けるためにも、ハイレベルな雑誌での論文に投稿することにもこだわった」と述べる。