もし今、アメリカで内戦が勃発したら!? 超話題作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の監督を高橋ヨシキが直撃!「映画は未来への警告である」
アレックス それもある。そもそも右派と左派はどちらも対話に失敗しているところがある。例えば自分を左派だと規定した瞬間に、その人は右派を疎外するようになる。逆もまたしかりだ。(観客が)そうならないようにしたいという気持ちは当然あった。 でも、テキサス州とカリフォルニア州が組むという設定が興味深いと思ったのは、「ファシストに対抗するためなら共和党と民主党が合意できるんじゃないか」と思ったからだ。合衆国憲法を解体し、法による支配をないがしろにし、自国民を攻撃する......そのようなファシストの存在は右派・左派の政治思想の不一致よりもずっと深刻で、共闘して立ち向かう必要がある。 問題はこの設定をなぜ人々が受け入れ難く感じるのかだ。右派と左派のいさかいのほうがファシズムへの抵抗よりも重要だと言っているのに等しい。そんな考えはファシズムがどのようなものか多少でも知っていたら、バカバカしいだけでなく、クレイジーで危険だとわかるはずだ。 法の支配よりも自分の政治信条を優先するような政治家は完全におかしい、ということを観客には考えてもらいたかったんだけど、そこに至る手がかりは極力少なくした。そうすることで「いったいなんでテキサス州とカリフォルニア州が手を組んでるんだ?」という疑問を観客に抱かせることができる。 でも、これは日本のメディアのインタビューだから話せることであって、アメリカでこんなことを言ったらすぐに打ち切られてしまう。イギリス人のぼくがこのような映画を作ること自体が議論を呼ぶということもあって、アメリカで『シビル・ウォー』について語るのはマジで難しいんだよ。 ■人種差別に基づく戦慄の処刑シーン ヨシキ この映画を見た人はみんな、"あの場面"にぞっとすると思いますが......。 アレックス ジェシーの場面だね(場面写真①)。 ヨシキ そうです。人種差別と外国人嫌悪が最悪の形で表出する恐ろしい場面でした。アメリカは移民の国で、というか(先住民以外の)アメリカ人は全員移民です。その中で、ジェシー・プレモンスの演じたキャラクターは肌の色に基づいて他人を裁く。 ぼくはアジア人として、あの場面にとてつもない恐怖を感じたし、シーン自体も非常にリアルなものに感じました。 アレックス (公開後に)興味深いことに気づいたんだが、この場面は一種のテストとして機能するんだ。ジェシーが演じるキャラクターは東アジア系の人たちを処刑するんだけど、それが人種に基づくものだと気づかない人たちもいる。このことには興味をそそられたよ。 映画に対する彼らの反応は、彼ら自身の経験や意見に基づいて引き出されたものだ。これは映画がロールシャッハテスト(*)のような役割を果たしているということで、ぼくはそういう映画を作りたいと思ってやってきた。 (*スイスの精神医学者ヘルマン・ロールシャッハによって考案された心理検査。インクの染みで作られた曖昧な模様に対する被験者の反応から、性格や精神状態を分析する) ヨシキ この場面の直前、サミー(演:スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)は......(場面写真②)。