がん医療で広がりつつある医師と患者の共同意思決定「SDM」とは?【更年期女性の医療知識アップデート講座】
SDMで治療の成功率や満足感が高まる
従来のインフォームド・コンセントは、治療内容についてわかりやすく説明をして同意をとることに重きが置かれていたが、それだけでは、現状の患者の選択を医療者が支えきれなくなっている。そこで生まれたのがSDMなのだろう。SDMで大切なのは、医療者との信頼関係だ。 アメリカで乳がん診療に寄り添う活動をしているサトコ・フォックス医師は、「SDMを取り入れることで、患者さんの治療結果が向上する場合が多く、患者さんが自分の価値観に合った選択を行い、それに基づいた治療を受けることで、治療の成功率が高まることがあります。さらに、患者さんが自分の選択に納得していると、治療に対する満足度が高まり、メンタルヘルスにも良い影響を与えることが知られています」と話す*2。 インフォームド・コンセントだけで治療方針を決められるのか? それとも、SDMで医療者と相談しながら治療を決めていかないと決断できない内容なのか? を見極めるためには、私たち患者も普段からヘルスリテラシーを磨いておかなくてはならない時代でもある。SDMでは、患者の考え方や価値観がとても重要になる。 *2 「アメリカでの乳がん診療に寄り添う:在米日本人女性のためのシェアディシジョンメイキングのお手伝い」Satoko Fox(乳腺放射線科医・ウイメンズヘルスコンサルタント)ホームページ
遠慮せず医療者に頼りながら一緒に決めていく
研究では、SDMの意思決定のシーンで患者のタイプは、だいたい3つに分かれ、それぞれ同じくらいの割合で存在しているとされている*3。 1.自分で最終決定をしたい(医師の意見を考慮したうえで自分で最終決定をしたい)。 2.どの治療が自分にとって最善かを、意思と責任を医師と分かち合って決定したい。 3.すべて医師に決めてほしい(自分の意見を考慮したうえで医師に最終決定をしてほしい)。 これを見ると、全部自分で決めなければならないと気負わなくてもいいこともわかる。なかには医師に決めてほしいという人も3分の1くらいいるのだ。 「自分はどうなのか?」を病気と直面する前に考えておけば、いざというときに医療者に、「私はこういうタイプだから」と率直に自分の意思を伝えやすいかもしれない。 医療者に遠慮することはない。伝えやすい医療者(医師だけでなく、看護師、カウンセラーなど)を見つけて、ひと言を発することから始めてもいいのだ。SDMは、どうしてよいかわからないときは、相談して、協力してもらい、一緒に悩んで、一緒に決めようという、新しい医療の姿なのだから。 まず知っていただきたいことは、今がん医療の世界に、SDMという考え方があること。そして大切なことは、自分はどう生きたいのか、人生において優先すべきことは何なのか? そして、最終的にはどう死ねたらいいのか? を平常心のときに考えておくことかもしれないと、私は思っている。 *3 「乳房再建を含む乳癌術式決定における患者中心の意思決定支援とディシジョンエイド活用の動向」大坂和可子、山内英子 Oncoplastic Breast Surgery 3(3・4):51-58,2018 参考資料/ 「患者さんと医療者がともに決める医療、SDM(Shared Decision Making)」中山健夫(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授)2024年3月 小野薬品工業Webサイト 「がん検診における’Shared Decision Making’推進のためのホームページ」©2023がん検診SDM事務局 帝京大学濱島研究室
取材・原文/増田美加 1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。約35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員 イラスト/かくたりかこ