海の煌めきを宿す、硬質な美:民谷螺鈿
ー着物の需要が減少していくなか、業界の課題について、またその課題を解決するためにはどのようなことが必要だと考えますか? まず着物業界では、市場が減っていくなかで流通の川上である製造元が大変疲弊しています。多様な特殊糸などの原料、織りの機械や道具がなくなり、また職人の後継者が育たないため使える技法も減少、それらが原因で魅力ある多彩なものづくりができなくなり需要減少に拍車をかけるという悪循環があります。着物の伝統技法を守り続けるには、減少した需要をプラスに転換できるような技術の転用とあらたなビジネスにつながる場所を見つけることが必要だと考えます。 織物業界では、製造は先進国から人件費の安い国々に移転してきています。日本でも2000年頃から急速に繊維の海外移転が進み、テキスタイルの国内生産は激減しています。きもの業界で使われる技法の新たな仕向け先として世界の成長市場のひとつラグジュアリー市場が考えられますが、ラグジュアリー製品は生活必需品ではありませんから、消費者や仕向け先業者に求められるような工夫、技術の応用と新たな価値の創造が必要です。自分たちが持つ歴史や技術といった資産を見つめなおし、しっかりと自身の武器が何かを自覚してビジネスにつなげる能力が必要と考えています。
世界のスタンダードを築く
ー世界に発信するため、織物業界のPR活動やブランディングについて感じていることやお考えをお聞かせください。 茶道はお茶を飲む作法だけでなく、総合芸術としての価値を創出したものといわれ、世界においてリスペクトされる日本を代表する文化かと思います。そのような文化の育つ日本は、そういった本質的なところでのブランディングの力を持つ国だと思います。昔は日本が世界においていろいろな分野で基準を作っていこうという意識が高かったのではと思いますが、今ではそれがどんどんなくなっているように感じています。西洋の価値基準に沿うだけではなく、自分たちで基準を作っていく姿勢、日本の伝統や文化の良さを見直して自ら誇りを持つこと、日本ならではの内容とアプローチでスタンダードをつくっていく姿勢が求められている気がします。具体的な答えはまだ浮かびませんが、世界に容易に発信できるSNS、WEBなどを十分に活用しながら、前段でお話しした自身の武器を再確認しブランディングと発信をしていければと思っています。 ー京丹後は丹後ちりめんの産地として有名ですが、地域の機屋同士の連携や地域創生につながる活動はあるのでしょうか。 丹後織物協同組合があり、昔から地域での連携はありました。かつては生地の製造のみ行っていた機屋がオリジナルプロダクトの生産を始めたり、クラフトツーリズムなど地域創生につながる活動も盛んになってきています。インバウンド需要の増加をひとつの契機として、地域全体が盛り上がることを期待しています。 地域創生についても目的や対象を明確化するブランディング、魅せ方や発信方法を戦略的に考えたPRが重要になります。私は海外でいろいろな方と出会ったことで、以前よりは多様な視点で考えることができるようになりました。現在はSNSやWEBなどで瞬時に情報は得られますが、実際に人と出会い、対話する交流はやはり大切です。近年はクリエーター、アーティスト、デザイナーなどが世界から丹後に集まる仕組みをつくるための活動をつづけています。 また、最近では京丹後エリアの観光客が増え、地域の行政と連携してインバウンドの観光客を対象に工房見学を行っています。京丹後は京都市内から電車で約3時間で日本の美しい原風景が広がり、食も豊かな地域です。行政や地域の有志の方たちともどのようにこのエリアを盛り上げていくのが良いか、意識を共有し少しずつでも良い方向に進めたらと思います。