セブン&アイへの買収提案は「喜ばしいこと」。坂口孝則が"論理破綻"を指摘
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「セブン&アイ・ホールディングスの買収提案」について。 * * * セブン&アイ・ホールディングスが買収提案を受けた。相手は北米やEUにサークルKなどを展開しているアリマンタシォン・クシュタール。ガソリンスタンドに併設されたコンビニエンスストアが多く、電気自動車向けの充電ステーション設置を急速に進めている。 同社は世界各地の小売業を買収しまくって巨大企業に登りつめた。売上高はセブンのほうが少し高いくらいだが、時価総額はセブン5.3兆円に対し、クシュタールは8.5兆円もある(当稿執筆時点)。 経済産業省が2023年に発表した「企業買収における行動指針」には、真摯な買収提案であれば真摯に検討しろ、とある。実際にセブン側は社外取締役で構成する特別委員会を設置した。企業価値向上と株主価値の最大化に寄与するか検討し返答する。 あまり注目されないが、同指針は「取締役会に買収者に対する交渉力を付与し、買収者や第三者からより良い買収条件を引き出すことを通じて、株主共同の利益や透明性の確保に寄与する可能性もある」としてもいる。 たとえば自分たちの経営だと1億円の企業価値しかつかないところ、2億円にできるという買収者が登場したとする。日本企業の経営者は買収防衛のことばかり考えて保身するが、喜んで引き受けるどころか「もっと高く買ってよ」と交渉する選択肢だってあるんだぜ、というわけだ。 上場している以上は企業価値と株主価値の向上だけを考えろというのは、私は当然のことだと思う。 セブンの未来は検討結果を待つしかないが、このような提案自体は本来、喜ばしいものだ。「コンビニは日本のお家芸だから売却してほしくない」と語る経済評論家がいた。日本企業が外資の傘下になってほしくないという意見もあった。 このあたりが私にはよくわからない。現実問題として、日本の株式市場は外国人保有比率が30%を超えている。50%を超える会社もいくらでもある。 また、最近は日本企業による巨大な海外企業の買収案件が相次いでいる。ソフトバンクがアーム(半導体設計)を、パナソニックがブルーヨンダー(サプライチェーン管理ソフトウェア開発)を、日立がグローバルロジック(デジタルエンジニアリング)を、JTがベクター(たばこ)を......など、枚挙にいとまがない。 もっとも有名なのは日本製鉄がUSスチールを買収しようとしている件だろう。日本企業は外資を好きに買収できるが、外資の日本企業買収は不可というのは論理が破綻している。 それでもなお「感情として日本企業が買収されてほしくない」というなら、もちろん上場を廃止するという選択肢はある。 また上場していても、安全保障上の問題がある場合は、外資ファンド等が株式の1%以上を取得する際に届け出の義務がある。かつてテレビ局を買収しようとした案件で有名になったが、放送事業者は外資の比率が20%未満でなければならないという縛りもある。 もしコンビニ事業が日本の伝統事業だったり安全保障上の要だったりするというなら、国会議員を動かして守ればいい(実際に外為法を適用しようとする動きもある)。 ただし、大原則として特定産業以外は自由にすべきだ。セブン&アイの「アイ」には「愛」の意味もあるが、愛するのは自由な経済活動であって、経営者の保身は愛さないだろうから。 写真/時事通信社