「なぜ私は生まれたのか」、生後すぐ匿名の実母と離れ養子に預けられたフランス女性が抱えた葛藤【フランスの匿名出産】
「なぜ私は生まれなくてはならず、なぜ実親と別れたのか」。フランスで法制化されている匿名出産で生まれ、養親の元で育った女性が取材に応じた。ずっと知りたかった母親の実像へ近づいた時にわき起こった複雑な思いを打ち明けた。 子どもが自らの生い立ちを知ることは、「子どもの権利条約」で保障され、日本も批准している。若年妊娠など、さまざまな事情で家族や行政に身元を明かしたくない女性もいる中で、生まれた子どもたちの「真実を知りたい」という願いと、どう向き合うのか。国内でも議論は進みつつあるが、法整備には至っていない。 自らの生い立ちに葛藤を抱えた当事者の語る気持ちに、耳を傾けた。(共同通信=石原聡美) ▽生まれた理由 モリーン・ブランシャールさん(32)は1992年、匿名出産で生まれ、養親の元で育った。育ての親はモリーンさんが幼いころから、匿名出産で生まれたことも、自分たちが実親ではないことも話してくれていた。
どんな職業だったのだろう。実母への感情は人生の中で移り変わり、「すべての感情を経験した」と感じている。思春期のころには「頼んだわけでもないのに、なぜ私は生まれなくてはならず、なぜ実親と別れて養子縁組になったのか」と憤った。 実母の写真だけでも見たいと思い、16歳の時に養子縁組団体に問い合わせると、未成年であることを理由に、書類を見せてもらえなかった。実母に関する情報を、声に出して読んでもらったが「集中できず、何かを得た気はしなかった」。 24歳になり、書類のコピーを見て「正直、がっかりした」。実母は私と同じように小柄で黒くて巻き毛だと思っていたが、実際は背の高い白人女性だったからだ。匿名出産を選んだ理由は「赤ちゃんが幸せになってほしいから」。実母への気持ちが和らいだ。 ▽さまざまな感情を経験 2023年夏、これまでの人生を振り返った本を出版した。本には、高校に入って大麻を常習し不安を紛らわしたこと、養子であるいとこが自殺し「自分も同じことをしたらどうしよう」と動揺した過去もつづった。「ずっと心の奥には、見捨てられたという気持ち(がある)」