「なぜ私は生まれたのか」、生後すぐ匿名の実母と離れ養子に預けられたフランス女性が抱えた葛藤【フランスの匿名出産】
一番の支えは、いつでも何でも話すことができる養親の存在だ。愛する養親やきょうだいもいる。養子を迎える人たちに「養親と養子が信頼しあう関係性を築き、お互いに受け入れることが必要だ」というメッセージを送りたい。 自身も子を生み、母になった。それでも、実母のことを理解できない気持ちもある。さまざまな感情を経験してきたが、匿名出産制度がなかったら良かったとは思わなかった。「匿名出産は、(当時の)実母にとっての解決方法で、母は救われたのでは」 ▽出自情報の専門機関 匿名出産に関する法整備に関わった元最高裁判事のマリー・クリスティーヌ・ル・ブシコ氏によると、フランスでは1970~80年代、自分の親に関する情報へのアクセスを求める声が高まり、国家機関「CNAOP(クナオプ)」が2002年に設立された。 法律には、「子どもは自分の出自情報にアクセスできるが、その時に母の同意が必要」と書かれている。「人と人の平等を守る」法律は全会一致で可決した。
「出自を知る法律ではない。出自について、聞いて助けてもらうことが可能であるということを決めた」(ブシコ氏) ▽2つの書類 クナオプは、(1)名前や住所など身元情報(2)実母の国籍、匿名の理由など個人を特定しない情報―の2つに分けて書類を保管する。 子どもは18歳以上で(1)の開示を希望することができ、実母の同意が得られれば開示される。ほぼ全ての女性が、何らかの情報を残す。ただ、出自に関する問い合わせをする子どもは少ないという。 クナオプのアンヌ・ソフィー・モニエ事務局長は「母子ともに最善の環境で出産できることが重要。母子の健康が守られ、出自情報にアクセスしたい場合は支援する」と話す。 母と子の権利、どちらが優先ということではなく、両方の望みが一致した時に初めて情報が開示される。一方通行なのは、「子が望めば母を探すけれど、母が望んでも子どもを探さない」 ▽国連が勧告 厚生労働省が調査会社に依頼してまとめた報告書によると、フランスの匿名出産で生まれた女性が1998年3月、匿名出産制度が出自を知る権利を妨げるとして、欧州人権裁判所に申し立てた。2003年の大法廷判決は、匿名出産は「欧州人権条約に違反しない」とした。