「なぜ私は生まれたのか」、生後すぐ匿名の実母と離れ養子に預けられたフランス女性が抱えた葛藤【フランスの匿名出産】
日本も子どもの権利条約を批准しているが、法整備はされていない。生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟は、出自を知る権利を含めた生殖補助医療の法制化に向けて議論中だ。 実親が病院にのみ身元を明かす内密出産でも、出自を知る権利の保障は大きな課題の1つ。2022年9月に国が示した指針は、妊婦の身元情報の管理方法や開示時期を定めたルールを作成するよう、医療機関に求めた。取り扱いを事実上、病院に委ねた形だ。 熊本市と慈恵病院は2023年5月、共同で「出自を知る権利の検討会」を立ち上げた。有識者や当事者らは意見を交わし、2024年12月に、報告書をまとめる予定だ。 ▽サンタが来ない 「大事なのは、本人がアクセスしたい時に鍵を開けられるキーパーソンとキーワードを持つことだ」。社会福祉法人「甘木山学園」(福岡県大牟田市)理事の坂口明夫さんは、そう語る。2024年7月、熊本市で開かれた内密出産で生まれた子の出自を知る権利に関するシンポジウムでのことだ。
坂口さんは、長崎県の端島(軍艦島)出身。不倫で生まれた子だった。親戚の家をたらい回しにされ、7つの家庭で育てられた。ある家庭では、実子にはサンタクロースからのクリスマスプレゼントが届いたが、養子の自分にはサンタクロースが来なかった。 「どこの馬の骨か分からん子」「母親がちゃんとしていれば」―。心ない言葉を親戚からぶつけられたこともある。出自は知らない方が良かったと思っていた。 ただ、「自分が結婚して、8つ目の家庭と出会って変わった」と語る。親になり、娘から「お父さんのパパとママはいないの?」と聞かれた。子どもに嘘はつけない。丁寧に事情を説明した。 「小さい時は絶対に知りたくないと思っていたが、親になって見える景色があった」 ▽選ぶのは本人 実親からどのような情報を預かり、保管するのか。坂口さんは、出自情報の収集・保管に関する手順を明確にし、公的機関が関わる必要性を指摘する。
さらに懸念するのが、生い立ちを知った当事者の支援態勢だ。「出自を知れば、人の気持ちは揺らぐ。自らの生の根拠が想定と全く違うこともあれば、『望まれて生まれたのではない』と知り絶望することもある。生い立ちを知る時、寄り添う支援者が周囲にいることはマストの条件だ」と訴える。 「出自を知る権利と同じように、知らない権利もある。出自を知るか知らないかを含め、選ぶのは本人だ」