サザンカパートナーズ・牛越直社長 インタビュー ~ 待ったなしの早期再生、次世代を担う人材は組織の中に ~
―LBPと商工中金のタッグについて
圓尾:商工中金は6年ほど前から再生支援の強化を模索していた。多くのコンサルや支援者とコミュニケーションしたが、LBPのハンズオンの支援力に惹かれた。 牛越:投資先、投資候補先の経営者と対話を始める際、商工中金がファンドに関与していることは安心感の醸成に繋がっている。
―サザンカパートナーズへの出資比率は、LBP50.2%、商工中金キャピタル49.8%だ
牛越:入口の段階で役割分担について整理した。ファンド運営では船頭が多いとうまくいかない。運営主体はLBPだが、商工中金には全国ネットワークや資金面でサザンカファンドの運営に最大限のコミットメントを頂いている。
―支援対象は商工中金の与信先だけなのか
牛越:商工中金をメインとする企業も手掛けるが、それだけではない。地域金融機関が自行だけでは再生を動かしていけないが、商工中金が何番手かに入っていて、協力することで動かしていけるような案件も想定している。ただ、2月以降、全国の地銀から商工中金と取引がないが、地域にとって重要な企業の紹介が相次いでいる。
―組成以来の実績、投資判断の基準は
牛越:投資実行は2件、相談ベースでは約80件(※3)だ。実行した2件のうち1件は社名を開示した。レピュテーションへの配慮が必要な中で、しっかりとした前向きなメッセージを出すことが大切だと判断した。 投資判断で大切なのは事業性の見極めだ。我々はリファイナンス前提でのお付き合いではなく、ファンドとして全てのリスクをテイクする。コロナ禍で負った過剰債務もあり、相談を受ける案件は事業性が極めて厳しいケースが目立つ。こうした状況に金融機関も悩んでおり、長年の付き合いの中で「事業性がまだあるのではないか」との想いで持ち込まれる。だからこそ、支援決定前から常駐する。 ほかのファンドだと、社外の専門家のデューデリ(資産査定)を見てプライシングをし、支援案を提案することが多いが、我々は自分たちの目で見極めることに時間をかけている。 我々の取り組みを通じて金融機関に気づきを与えたいとの想いもある。資金繰りに窮した企業を抜本再生する場合、企業が所在する地域外のスポンサーに身売りする形にならざるを得ないケースが多い。着手が遅すぎるのだ。金融庁が早期再生への取り組み促進を掲げた(※4)こともあり、金融機関の本部人員は拡充されているが、営業店からの「トスアップ」がまだ弱い。なので、早期再生に関する金融機関向けの研修や、ツールとしてのファンドの有用性の啓蒙も非常に重視している。 また、債務者区分とその企業経営者の年齢の関係を分析すると、高齢になるほど下位区分(※5)になるとの話もある。上位区分で財務の良い企業はM&Aの対象になり、悪い企業は下位区分のままM&Aも事業承継もされず、経営者はますます高齢になる。環境は変わりつつあるが、金融機関内の評価制度も含め、こうした層へのアプローチには課題が多い。 さらに、スポンサー型による抜本再生の配当率は平均3%との話もある。早期に着手できておらず、スポンサー選定時の交渉余地が少ないことを物語っている。地域経済の活性化を是とする前提自体に議論の余地があることは承知した上で申し上げると、スポンサーが地域外の企業だった場合は本社機能が移転されたり、サプライチェーンが大きく塗り替わったりする。これでは地域経済は守れない。 上場企業の場合、赤字がずっと続くとゴーイングコンサーン注記(※6)が記載され、継続企業の前提にシグナルが灯る。継続企業の前提が成り立っていないと清算価値になってしまう。金融機関としてその企業の価値を本当に考えるのであれば、本業支援に取り組むか、早期再生に舵を切るしかない。どのようにトスアップの仕組みを作るのかは、金融機関がその地域とどのように関わり合うかに繋がる。 ※3 インタビューは9月上旬実施 ※4 2024年3月8日に金融庁は経産省・財務省と連名で「再生支援の総合対策」を公表。このなかで、監督指針を改正し、金融機関に「事業者の現状のみならず状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を求める」(2024年4月より適用)ことを明記した ※5 債務者区分と単純比較はできないが、TSRの調査(「代表者の年代別財務分析」調査、2024年8月29日)によると、経営者の年齢別の経常利益率(中央値)は、40歳未満3.0%、40歳代2.6%に対し、70歳代2.4%、80歳以上1.9%で、高齢の企業ほど悪化している ※6 TSRの調査(2024年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査、2024年5月31日)では、2024年3月期本決算を発表した上場企業約2,300社のうち、決算短信でゴーイングコンサーン注記を記載したのは23社