北朝鮮が不気味な「新戦略兵器」言及も「非核化」交渉の余地はある?
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が毎年元日に発表している「新年の辞」がなかった代わりに、昨年末に開かれた党中央委員会総会での金正恩氏の「報告」が注目を集めています。深刻な経済状況や新しい戦略兵器への異例の言及がありましたが、その背景には何があるのか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【写真】最初から「非核化」する気はなかった北朝鮮 膠着する米国との協議
「経済は深刻」国民に耐乏生活求める?
北朝鮮では2013年以来毎年、金正恩委員長が元日に「新年の辞」を発表してきましたが、今年は行われませんでした。
「新年の辞」とは1年間の施政方針演説であり、金委員長の考えを示すものとして北朝鮮内外で重視されています。特に2018年の「新年の辞」では、北朝鮮が平昌オリンピックに参加する用意があるとの表明が行われ、南北両朝鮮の首脳会談を経て6月のシンガポールでの米朝首脳会談へとつながっていきました。 今年の元旦に「新年の辞」が発表されなかったのは、12月28日から4日間も労働党中央委員会総会が開催され、金委員長は同会議を締めくくる際に今後の重要方針を示す「報告」を行っていたので、あらためて「新年の辞」を発表する必要はないと考えられたものと思われます。 同報告にはいくつかの注目すべき内容がありました。第1に、金委員長は米国の態度に強い不満を漏らし、「米国は北朝鮮に対して敵視政策を取っている」と表明しました。敵視政策とは米韓合同演習を指すことがありますが、金委員長の発言は米国の北朝鮮に対する姿勢全体を問題視したものであり、「非核化交渉において、米国は、北朝鮮がすべての核を交渉のテーブルに乗せること(包括的非核化)を要求しており、北朝鮮がそれに応じるまで制裁措置をまったく緩和しないのは不当である」という意味であったと思います。 第2に、北朝鮮としては「米国の敵視が撤回され、朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制が構築されるまで、国家安全のために必要な戦略兵器開発を行っていく」と宣言したうえ、「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」と述べました。この戦略兵器は完成間近であり、「科学者や設計者、軍需産業分野の労働者などによって、完璧に実行済み」とも説明しました。 第3に、「国家経済の主要産業部門の深刻な状況を早急に是正するための措置を取る」と述べました。北朝鮮が自国の経済について「深刻な状況」と表明したのは異例です。この発言は、単に北朝鮮経済の脆弱性を認めるのが目的でなく、「米国が主導している制裁は今後も長期にわたって継続され、北朝鮮はそのなかで生きていかなければならないが、米国の言いなりにはならない。深刻な経済状況は早急に是正していく」という趣旨であり、中国やロシアの協力を得つつ自力で経済状況の改善を図っていくが、国民にも耐乏生活を覚悟してもらいたいという考えだと思います。