改正障害者差別解消法のためではない? ウェブアクセシビリティに取り組むべき3つの理由
2024年4月スタートの改正障害者差別解消法に関する誤解
以上を踏まえ、2024年4月から施行された障害者差別解消法の改正について見ていきましょう。 障害者差別解消法は2016年に施行され、「障害を理由とする差別がない社会を作ること」を目的とする法律です。障害者への「合理的配慮の提供」が行政機関に対して義務付けられており、民間事業者に対しては「努力義務」となっていました。また、この法律では、ウェブサイトのアクセシビリティは「環境の整備」として位置付けられていて、こちらも努力義務になっています。 これが2024年4月から民間事業者に対しても「合理的配慮の提供」が義務化されることになりました。ウェブアクセシビリティの改善も「合理的配慮」の一つになります。しかし、「合理的配慮の提供」が義務化される=「アクセシビリティが義務化される」という誤解を生んでいます。 ■ 合理的配慮の提供とは? 「合理的配慮の提供」とは、障害当事者から問題を指摘されたときや改善を求められたとき、当事者と対話しながら困りごとを把握して、事業者の負担が重すぎない範囲でできる限り問題の解決にあたることです。 たとえば車椅子ユーザーがレストランで座れるように椅子を片付けることや、聴覚障害者の方から求められれば、筆談の手段を提供することは合理的配慮に当たります。 ウェブに関しても、障害当事者から要望があった場合は対応することが必要になります。たとえば、PDFをスクリーンリーダーで読めるように改修したり、電話やメールで情報を提供したりするなどの対応が考えられます。義務化されるのはこれらの配慮であり、アクセシビリティの確保が義務化されるということではありません。
ウェブアクセシビリティのトレンド
日本では法的に義務化されていなくても、ウェブアクセシビリティに対する意識は国内外で高まってきています。 近年はウェブアクセシビリティ方針を持って取り組むことに力を入れている日本の大手企業が増えています。花王やヤフー(現LINEヤフー)などの企業は、アクセシビリティに関する理念や方針を公開しています。 一方、海外に目を向けると、米国には「障害を持つアメリカ人法」(Americans with Disabilities Act:以下ADA)という法律があります。ADAは1990年に制定された連邦法で、雇用・市民利用施設・公共移動交通・州および自治体サービス・電話通信の5分野において「障害を理由に差別してはならない」ということが定められています。 この法律が制定されたのは、ネットが普及する前のことですが、1996年以降は「公共性」という文言がウェブにも当てはまると考えられており、今はウェブアクセシビリティを確保することは前提となっています。詳しくは第2回の記事で紹介しますが、実際に日本企業のウェブサイトが米国で訴訟になった例もあります。