パリの三ツ星シェフ・小林圭が描く未来図とは?
「ガストロノミーとは心を満たすもの。僕にしか作れない唯一無二の料理を目指します」パリを拠点にしつつ、東京をはじめ、世界中から熱い注目を浴びる料理人・小林圭に、これまでの軌跡とこの先の展望について聞いた
小林圭(こばやし・けい) 長野県生まれ。長野、東京、フランスにて料理人としての研鑽を積む。南仏、アルザス地方などで地方の食の豊かさを学び、パリではアラン・デュカス率いる「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で7年働き、最後の5年はスーシェフを務めた。2011年パリで「Restaurant KEI」をオープン。2020年フランス版ミシュランガイドにてアジア人として初めて三ツ星を獲得。 「ガストロノミーは幸福の分かち合いだと思う。おなかではなく、心を満たすものだと思います。僕にしかできないものを作っていきたい」。銀座「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」にて撮影。 小林圭がフランスのミシュランガイドで三ツ星を獲得したのは2020年3月。アジア人初の快挙だった。以来、パリの「RestaurantKEI」は5年連続で三ツ星を獲得。料理人にとって星をキープすることは重荷でもあると聞くが、小林は「キープするつもりはないんです。毎年、『星を獲りにいく』という姿勢で仕事に向き合っているだけです」ときっぱり。 パリを拠点とする小林だが、今春、東京で自らの名を冠したスタイルの異なる3軒のレストランを監修、オープンさせた。まず「ザ・リッツ・カールトン東京」内の「エリタージュ バイ ケイ コバヤシ」。「エリタージュ」は「遺産・継承」の意味で、偉大なフランス料理を、歴史あるホテルで次世代につなげたいという思いを込めた。ここでは伝統料理を現代の味にアップデートしている。2軒目は「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の「ケイ・コレクション・パリ」だ。遊び心満載のガストロノミックな料理が早くも注目を集めている。 3軒目は小林が三ツ星を獲る前からタッグを組む、和菓子の「とらや」との協業による銀座「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」だ。ここはアラカルトで好きな料理をオーダーするスタイルに。「銀座は若いときから憧れの場所でした。世界の美食家が目指して来る“隠れ家”をこの街につくりたかった」と小林は言う。上階には1586年創業のフランスのクリスタルメゾン「サンルイ」とコラボレーションしたバーもあり、そちらも小林が監修した。檜や神代杉、宮城の伊達冠石(だてかんむりいし)をあしらい、西洋の石の文化と日本の木の文化の融合を空間で表現。バーのテラスとルーフトップには園芸家・プラントハンター西畠清順が手がけた庭があり、琳派の描く世界を彷彿とさせる。 小林が料理人を目指したのは15歳のとき。「TVで見た三ツ星シェフのアラン・シャペルのコックコート姿がかっこよかったんです」。料理の道に進むことを決意し、地元のレストランに直談判。料理長に、「友達と縁を切る。彼女をつくらない。スキーをしない。ファストフードは食べない。通学をやめる。この条件をのめるか三日考えてから来い」と言われた。翌日、「そうします」と電話をしたところ、「人生の一大事を一日で決められるのか。もう二日間考えろ」と叱られ、三日目に同じ返事をして採用された。「料理長には社会人として必要なことを厳しく教えてもらった。4年間で一生分怒られました。それが自分の血肉になっています。三ツ星をいただけたのは、今まで関わってくださったすべての方々のおかげです」。負けず嫌いで、ライバルは自分と言う。「これからの目標はもっとおいしい料理を作ること。行けるところまで行きたい」 さらなる高みへ。最大のライバルに打ち勝つ秘訣も、小林はすでにわかっている。 ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ) 住所:東京都中央区銀座7の8の17 虎屋銀座ビル11F 営業時間︓17時30分~20時30分(L.O.) 日・月曜定休 ST LOUIS BAR by KEI(サンルイ・バー・バイ・ケイ) 住所:東京都中央区銀座7の8の17 虎屋銀座ビル12F 営業時間︓17時30分~23時(L.O.) 日・月曜定休 BY MIKA KITAMURA