まるでSF! 日本発、「犯罪予測」の最前線! 過去の犯罪を分析し、未来の悲劇を防止する
このときに初めて「犯罪には発生のパターンがある」と知った梶田氏は、直感的に自身の研究分野である理論物理の手法が、犯罪予測に生かせるのではないかと考えた。 「理論物理学は現象の本質をとらえ、それを抽象的なモデルとして分析することに特化した学問です。犯罪に発生パターンがあるなら、そのパターンを理論物理のフレームワークによってモデル化することで、発生を予測することも可能になるはずです。 実際に過去の論文を検索してみると、物理学者が犯罪予測のアルゴリズムを考案したものが見つかりました。ただ、犯罪予測の研究は犯罪学やコンピューターサイエンスが交わる分野であるため、専門の研究者が非常に少ない。理論物理を専攻してきた自分なら、その発展に貢献できると思いました」 まず梶田氏は個人的な啓発活動の一環として、犯罪のオープンデータを活用して地図上にエリアごとの犯罪情報を表示するモバイルアプリを開発。そこに理論物理学の知見を組み合わせることで、アプリと犯罪予測を組み合わせたサービスを構想していった。 やがて、そのモバイルアプリが日本のベンチャー企業の目に留まり、梶田氏は帰国後にアプリを売却。17年にはさらに深く犯罪予測のシステムを研究するため、東京大学の空間情報科学研究センターの客員研究員に就任した。 「しかし、予測システムの精度を上げるためには、警察のプロジェクトに関わるなど現場での実践が不可欠です。ちょうど警察の方々も興味を示してくれたことから、SP社の起業を決意しました」 ■会社の窮地を救ったブラジルの実証実験 ただ、研究者から経営者への転身は予測を超えた困難の連続だった。 「そもそも日本は犯罪件数が少ないため、犯罪予測システムに対するニーズも国外に比べて高くはない。創業のきっかけとなった警察との共同プロジェクトも最終的に『CRIME NABI』の導入にはつながらず、起業直後はデータ分析やAIの受託開発などでしのいでいました」 海外の研究者からも、「治安の良い日本での大きなビジネスは難しいだろう」と言われていたことに加え、北米にはすでに競合する企業があり、ビジネスチャンスは少なかった。 「そんなときにJICA(国際協力機構)が、ブラジルの警察に対して支援をしていることを知りました。日本のベンチャー企業の技術を使い、現地の社会課題解決をサポートするという公募案件があったのです。 犯罪件数の増加が止まらないブラジルは、私たちの犯罪予測システムの有効性を証明するには絶好の土地でした。そこで公募に立候補したことが、今の中南米での事業展開につながっています」