「医療用大麻ビジネス」は海外で右肩上がり 日本が参入する日は来るのか
日本にやって来る未来
日本は人口の3分の1以上が高齢者だが、年を追うごとにこの比率が増えて世界トップレベルの超高齢化社会になる。それはつまり「多死社会」ということでもある。 「死にゆく人」がマジョリティーになった社会で最大の関心事は何になるかといえば、やはり「穏やかな死」だろう。今、「豊かな老後」のトピックスが社会の関心を集めているように、人生の最期を安らかに迎える方法が盛んに論じられている。 ただ、今の日本の終末医療で、それはなかなか難しい。 実際に親しい人を看取った経験がある人は分かるだろうが、ドラマや映画でよく見かける「看取ってくれた人たちに別れを告げ、穏やかな表情で眠るように息を引き取る」ような最期を迎えられる人はかなりラッキーなのだ。 終末医療に詳しい国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長、および先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野長の小川朝生氏はこう述べる。 「生命予後が1カ月を切ると、2人に1人は“せん妄”という症状に陥ることが多いです。これは体の余力がなくなり、多臓器の不全状態や痛みによる睡眠の質悪化、薬の相互作用などの原因で起きるもので、注意力や思考力が急激に低下して、こちらが話かけてもぼうっとしてしまったり、つじつまの合わない話をしてしまったりします。 また、気分変動が激しくなって、急に怒りっぽくなったり性格がガラリと変わる。亡くなる直前、急に介護をしてくれている家族に怒鳴ったり、悪態をついたりする人がいるのもこの“せん妄”が原因と言わています」 このような死に方にまつわる「厳しい現実」がある中でも、当事者として特に避けたいと思うのは「痛み」ではないか。
「医療用大麻」にかかる期待
がんで亡くなる人の場合、激しい痛みが続くことも多いし、がんによって腸が閉塞したことによる吐き気で苦しめられる。最近は「緩和ケア」ということで、オピオイドという痛み止め薬が処方されて痛みなく過ごせる人も増えたが、それで痛みが完全に消えるわけではない。つまり、「穏やか」と対極の形でお亡くなりになる方もまだ一定数存在するのだ。 現在、医療界ではさまざまな方面からどうにかこの「死の間際の痛み」を和らげる方法がないかと模索している。その中の一つの可能性として、「医療用大麻」が期待されている。 「医療用大麻には、オピオイドでは取り切れないような痛みが多少なりとも緩和できるのではないか、ということが、一つの可能性として言われています。また、抗がん剤の副作用として吐き気やだるさも軽くなるんじゃないかと言われていますね」(小川氏) そう聞くと、気が早い人は「いいじゃないか! オレも亡くなるときは医療用大麻で穏やかに死にたいな」と思うかもしれない。だが、実はこの分野では高いハードルがある。「薬」としての医学的根拠がまだ確立されていないのだ。 「海外で医療用大麻が薬として確立しているのは、てんかん治療薬と、一部のがん治療中の副作用止めくらい。他の病気についても使われてはいるのですが、治療効果に関してはしっかりと検討されていないんですよ」(小川氏) つまり、臨床的なエビデンスがほとんどないというのだ。日本はいざ知らず、欧米で「医療用大麻」がかなり以前から使われているのだから、ちゃんとした治験や臨床研究などが行われていそうなものだが、この問題は「大麻」の位置付けが関係している。